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※ このSSは、KEY制作のKanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。
それは、一本の電話から始まった。
それは、姉からの物だった。
『秋子、久しぶり』
「ええ、姉さんも」
どうしたのだろう? と考えてみる。
姉は昔から、勉強とか仕事とか言う物は得意だったけど、人付き合いという物が苦手な人だった。
だから、何も用がないのに電話をしてくるとは考えられなかったためだ。
『海外出張の話は聞いてるでしょ?』
「ええ」
もっとも聞いたのは、母からだったけど。
『それで、祐一がどうしても海外には行きたくないって言うのよ』
「まあ、わかりますよ」
『でも、一人暮らしもさせられないでしょ』
たしか、祐一さんは16になっていたはず。
一人暮らしも出来るとは思うけど、それはその家庭の話なので相づちをうっておいた。
『それで、どこかに居候させられないかと、考えているのよ』
「うちなら歓迎ですよ」
即答した。
何にしても家族が増えるのは歓迎だった。
『悪いわね、秋子。費用とかは定期的に送るから』
「気にしなくていいですよ。そのくらいは大丈夫ですから」
こうして、急遽祐一さんが家族に加わることが決まった。
それは、私たちらしい素早い決め方だった。
ギィ…。
2階の空き部屋の1つを開ける。
………。
この家の間取りは夫と決めた物だった。
夫の書斎と、2人分の子供部屋…。
そんな事を夢見て間取りを決めた物だった。
そして、結婚後すぐに身籠もっていることが分かった。
それが名雪だった。
名雪とは夫の考えた名前だった。
雪の好きだった夫らしい命名だった。
でも……。
二人目をつくることも出来ずに。
名雪の誕生すら、見ること出来ずに……。
旅立ってしまった。
くも膜下出血。
2度の出血だった。
苦しむことがほとんどなかったのが、幸いだった。
でも、名雪は残った。
この子と一緒に。
あの人の思い出が一杯詰まった中で、生きていこうと…。
………。
と、不意に現実に戻る。
「掃除するんでした」
雑巾をぎゅっと絞って床や壁を拭いていく。
思っていたよりは汚れていなかった。
「そうだ、家具をそろえないと…」
掃除が終わったところでそう気付いた。
時計を見ると、名雪が帰ってくるまでには時間がありそうだった。
そう思って、商店街の家具屋へと向かう。
「やっぱり、不景気なのかしら」
家具屋の中には、私しか居なかった。
さほど、気にすることもなく家具を見つけていく。
とりあえず必要なのは、ベッドと、本棚、勉強机と椅子、ファンシーケースと……テーブル位で良いかしら?
「それだけじゃ、殺風景ね」
荷物が多くなってしまったので、軽トラックを借りて家に持って帰ることにした。
………。
「よいしょ…」
流石に、これだけの荷物を一度に運ぶのは大変だった。
「食事の用意もあるし、組立はあしたね…」
「ごちそうさま」
満足そうに夕飯を食べ終わった名雪が、眠そうに2階へと向かった。
そうだ、祐一さんの事を教えてあげないと。
「そう言えば、祐一さんが帰ってくるわよ」
「えええっ!?」
直後に、ドシンドシンドシンドシン……と言う音。
廊下に出てみると、名雪が廊下に転がっていた。
「階段は転がる場所じゃないわよ」
「お母さん、それより祐一が帰って来るって…」
「ええ、姉さんの都合で、祐一さんが一人になるからうちに来るのことになったのよ」
「わ…」
それは、驚きと喜びが混じったような表情だった。
名雪は、父親を知らない。
その事に関して罪悪感はないし、名雪もそれで悲しい顔をすることはなかった。
仕事をしながら家事という大変なことになっているけど、それでも名雪と一緒の時間は作っていたし、愛情も他の家庭に負けないように与えてきたつもりだった。
それでも、二人で暮らすにはやっぱりこの家は広すぎたから…。
祐一さんが来るというのは歓迎だった。
「名雪、起きなさい」
「…うにゅ」
無数の目覚ましが鳴り響く中、なんとか名雪を起こす。
「…ふぁ、おはようございます〜」
目をごしごしと擦りながら何とか起きあがったのを確認してキッチンへと戻る。
もう少し、寝起きが良いと、助かるんだけど。
「名雪、今日も部活?」
少し時間が経ってから、降りてきた名雪にそう訊く。
「うん。だから早くでないと……」
欠伸混じりにそう言ってきた。
「でも、全然早くないわよ。もう」
「え? お母さん、今何時……?」
「8時15分だけど」
と、途中まで聞いたところで、名雪の準備する速度が目に見えて上がった。
どうやら大変な時間のようだ。
「部活、間に合いそう?」
玄関先で、そう訊いてみる。
「……たぶん無理」
どうやら、もう諦めたようだった。
まあ、今日に限ったことではないのだけれど。
「それと、あの話だけど……今日、名雪が迎えに行ってね」
「どうして、わたしが……?」
今日は、仕事が休みだと寝起きながらも覚えているらしい。
「名雪も早く会いたいでしょ? どきどきして食事も喉を通らないって」
「言ってないし、いくらでも通るよ」
それでも、その表情は嬉しそうだった。
「1時に駅前だからお願いね」
「……うん、いいけど」
2,3回、頭に焼き付けるかのように呟くとすっくと立ち上がった。
「行って来ます」
玄関を出て、今日も走りながらの登校になったようだ。
「行ってらっしゃい」
そう、声をかけてから家の中へと戻る。
買ったままだった、家具を組み立てて、段ボールをひとまとめにしてしまっておく。
そして、お昼ご飯の用意をする。
久しぶりの、この場所だからかなり寒さが応えるだろう。
温かい食事を用意しようと思った。
きっと、こう言って来るはずだ。
「寒いーっ!」
と。
時刻は3時を過ぎていた。
食事は、どうやら温め直さないとダメなようだった。
話し込んでるのかしら…?
「ちがうわね…」
たぶん、名雪が遅れているのだろう。
のんびりと育ったのは良いのだけれど、時間にルーズなのは直して貰わないと…。
あの人に似たのかしら。
デートの時は、いつも私が待ってばかり居たから…。
ガチャ!
そんな昔のことを思い出していると、玄関が開いた。
「帰ったよ〜」
「寒みい〜っ!」
予想通りの声が玄関から聞こえてきた。
そして、私は出迎える。
大切な、家族を…。
「お帰りなさい、祐一さん」
ってことで、こっちがイットロードのSSでした
秋子さん、本当にすごい人ですね。
こんな人が、親とか親戚なら……と、思っちゃいますね
タイトルの「ハープ」には特に意味はないです
ただ、秋子さんがハープを弾いたら似合うなぁ〜と思ったんです