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第13章

》 愁嘆の顫音(トリル)-前編 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




その年は、祐一は家に居ないことが多かった。

どこに行ってるの? と訊いてもはぐらかされてちゃんと答えてくれなかった。

でも、毎日。朝ご飯を食べると、お弁当をもって(お母さんが作ってる)出かけて、夜になるまで帰ってこない。

なんで、一緒に行かないのかというと、答は簡単。

私が起きる時間が、祐一が出かける時間より遅かったから。

何度か早く起きようと思ったけどダメだった。

その事をお母さんに訊いても、複雑な表情を返されるだけだった。

何とも言えないような寂しさがあった。

なんで寂しいのか?

なんで祐一の事が気になるのか。

春、夏、秋と祐一を待っている自分に気づいて。

一緒にいると嬉しい気持ちになることに気づいて。

よくは分からないけど、私はきっと祐一のことが好きなんだと思う。

 

★      ☆      ★

 

その日は、祐一が帰る日だった。

昨日のうちに帰る準備を終えていた祐一はやっぱり、朝早く出かけていた。

午後には帰るから、と言っていたらしい。

………。

……。

………。

 「遅いわね…」

そんなに時間を気にしない、お母さんだったけど、それでもさすがに祐一が帰る予定の電車に乗れないほどの時間になると時計を気にしはじめた。

 「祐一だもん」

雪ウサギを作りながらそう答えた。

帰り際、それを祐一に渡そうと思ってさっきから作っているけれど、なかなかうまくできない。

………。

……。

時間がさらに過ぎる。

時間通りに帰ってこないことはもちろんこれが初めてじゃなかった。

私も遅れるから、大きな事は言えないけど。

……それでも、約束は破らなかった。

それが祐一だった。

 「お母さん、祐一がどこに行ってるか知らないの?」

 「聞いてないけど」

………。

さらに時間が過ぎた。すでに日が傾いて夕焼け空となっていた。

それでも、帰ってこない。いかんせん遅すぎるような気がした。

 「名雪、悪いけど、祐一さんを探してきてくれる?」

お母さんが、そう言って立ち上がった。

 「うん」

と、言った物の……。

祐一が昼間どこに行ってるのか探していた日もあった。

でも、どこを探しても祐一は居なかった。

もし、今日もそこに行ってるとしたら………

見つけるのは大変かもしれない。

プルルルルル………

出かけようとすると電話が鳴った。

プルルルルル………

祐一からかな? と考えているとお母さんが電話に出た。

 「はい、水瀬です。……はい。……はい」

その口調からして、相手が祐一じゃないことは分かった。

でも、いつになく深刻そうな顔をしていた。

 「わかりました。すぐ行きます……」

ガチャンと、受話器を置いた。

 「お母さん?」

 「名雪は、祐一さんを探してくれる? 私はちょっと病院に行って来るから」

 「病院?」

 「それから、祐一さんもう一晩こっちに泊まるから、家に連れてきてね」

それ以上は言いづらそうだったから、返事だけをしてそのまま祐一を探すために外に出た。

 「あ。雪……」

外に出ると、ゆらゆらと雪が降ってきていた。

 「雪……」

………。

いつまでも、雪を見ているわけにも行かずに出来たばかりの、雪ウサギを持つとそれを崩れないようにとラップでくるんだ。

……商店街。

……学校。

……公園。

………駅前。

いた。

すでに夜と言える時間。

駅前のベンチで……。

…街灯に、悲しく照らされて。

…祐一は、そこにいた。

泣いていた。

何が悲しいのかは分からなかったけど…自然に手が動いてその涙を拭った。

そして、祐一が顔を上げた。

いつからこうしていたのだろう。

祐一の目はこれ以上無いくらいに赤く腫れていた。

 「…やっと見つけた」

祐一は無反応だった。

まるで、私のことがみえていないようだった。

 「…家に帰ってなかったから…ずっと捜してたんだよ…」

 「…見せたい物があったから…」

 「…ずっと…捜してたんだよ…」

 「ほら…これって、雪うさぎって言うんだよ…」

 「わたしが作ったんだよ…」

 「わたし、ヘタだから、時間かかっちゃったけど…」

 「一生懸命作ったんだよ」

 「……」

上げていた顔が、また下がった。

 「…あのね…祐一…」

 「…これ…受け取ってもらえるかな…?」

 「明日から、またしばらく会えなくなっちゃうけど…」

 「でも、春になって、夏が来て…」

 「秋が訪れて…またこの街に雪が降り始めたとき…」

 「また、会いに来てくれるよね?」

 「こんな物しか用意できなかったけど…」

 「わたしから、祐一へのプレゼントだよ…」

 「…受け取ってもらえるかな…」

 「……」

すっと、祐一が立ち上がった。

 「わたし…ずっと言えなかったけど…」

 「祐一のこと…」

 「ずっと…」

 

 

お約束の名雪SSですが………暗いですね。
ああ、最近、書くSSが暗いぞ、俺。
のどかなの………どうやって書くんだっけ(^^;




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