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第13章

》 愁嘆の顫音(トリル)-後編 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




 「祐一のこと…」

 「ずっと…」

ばしっ!

何かが目の前を勢いよく通り過ぎて、私は思わず目を瞑った。

目を開けたとき、雪ウサギは、地面に落ちてしまっていた。

ただ、さっきまで目として付いていた木の実があさっての方向へ転がっていて。

悲しかった。

 「…祐一…?」

ただ、無表情に立っているいとこの名前を呼ぶ。

 「……」

祐一は何も言わない。

怒ってるの?

 「…祐一…雪…嫌いなんだよね…」

それしか思いつかなかった。

雪を見に来たのに、雪は冷たいから嫌いだ、と言っていた事くらいしか…。

言いながら、あちこちに散らばってしまった雪のかけらを集めていた。

何故集めているのか分からないけど、こうしなければ祐一が離れてしまうと思ったから。

手の届かないところへ行ってしまうと思ったから。

 「…ごめんね…わたしが、悪いんだよね…」

ただ、祐一に嫌われたくなくて。

一緒にいて欲しくて。

謝罪の言葉しか出てこなかった。

 「……」

祐一には全く変化がない。

それは、私も、この街も………この世界も見ていないような……。

そんな表情だった。

 「…祐一…」

 「…さっきの言葉、どうしてももう一度言いたいから…」

 「…明日、会ってくれる?」

別れの言葉は笑顔で。

だから頑張って笑顔でいようとした。

周りの雪を溶かすくらいの笑顔で居たかった。

でも、それが祐一から見て笑顔に見えるかの自信はなかった。

 「…ここで、ずっと待ってるから…」

 「…帰る前に…」

 「…少しでいいから…」

 「…お願い…」

気づいたら泣いていた。

泣かないと決めたのに……一度流れた涙は止まろうとしなかった。

 「…ちゃんと、お別れ言いたいから…」

それだけを言うと、駆けだしていた。

泣き顔を祐一に見られたくなかったから。

 

★      ☆      ★

 

翌日、早起きが出来た………正確に言うと眠れなかった私は、まだ朝焼けの空の下駅前へと向かった。

………。

駅前のベンチ。

約束の場所。

言いたいことがあった。

伝えたいことがあった。

私の気持ち。

好きだという気持ち。

いろんな物を、たくさん…。

たくさん詰め込んで祐一に届けたかった。

………。

雪が降ってきた。

今日はそれでも気温が低いせいか牡丹雪だった。

ゆっくりと舞い降りる雪。

今の時間は……と時計を見ると7時を回った頃だった。

まだ、時間はある。

………。

あれ?

いつから居たのだろう?

私の隣に、私と同じくらいの子がベンチに座っていた。

この子も、誰かを待っているのかも…。

何となくそう思った。

………。

…8時。

祐一、もう時間無いよ…。

逢えなくなちゃうよ…。

…8時半。

電車行っちゃったよ、祐一。

何かあったの?

遅れてるの?

…9時。

………。

…10時。

………。

…12時。

…2時。

…4時。

………。

……。

………。

夕焼けを見ることなく、日が落ちていった。

…結局、祐一に逢えることはなかった。

来てくれなかった。

…それでもこの場所を離れることが出来ないのはどうしてだろう。

もし、このすぐ後に祐一が来てくれたら。祐一はすぐ近くまで来てくれているのかもしれない。

そう考えると、どうしても動くことが出来なかった。

 「………」

そして、もう1人の子にもやっぱり待っている人は来なかったようだ。

………。

私もこの子も馬鹿なんだね、きっと………。

………。

二人とも…。

離れることが出来ない。

………。

暖かい…。

あれ? なんで暖かいんだろう?

見上げるとお母さんの姿があった。

 「おかあさん…?」

そうとうのどが渇いていたのだろう。しわがれたような声だった。

 「祐一さん。もう帰ったわよ…」

 「うん…」

分かってはいた。

でも、認めたくはなかった。

………来年。

来年の冬も祐一は来てくれるだろうか?

…来てくれるよね。

言いたいこと、まだ言ってなかったから…。

ふと、横を向いてみると、さっきまで待っていた女の子の姿はなかった。

……どこにも。

 

★      ☆      ★

 

手紙を書いた。

祐一に宛てて。

ないようは、どうしてるの? とかそんな内容だった。

お母さんから住所を聞いて何枚も送ったけど。

返事は返ってこなかった。

 

★      ☆      ★

 

時間が経った。

いまでも、時々手紙は出していたけれど、もうあきらめの感が強かった。

祐一はこの街を忘れてしまった。

私や、お母さんや、いろんな物を含んだこの街ごと、忘れてしまった。

それが私の答えだった。

 

★      ☆      ★

 

私は大きくなった。

小学校を卒業して…。

中学に入って……卒業して…。

仲のいい友達も出来て…。

制服に憧れていた高校に入って…。

そんな日常の中にいた。

高校では陸上部に入った。

先生が厳しくて大変だよ、と周りの人はいってくれたけどそのくらいの方が良かった。

なにかを一生懸命やっていたかった。

だから、2年になって部長になったのも自然な流れだった。

……。

でも、ふと悲しくなるときがあるのはどうしてだろう。

どうしてだろう……。

 

★      ☆      ★

 

 「ごちそうさま」

やっぱり、お母さんの料理は美味しかった。

お茶碗を、流し台の所まで持っていくと、予習をしようと自室へと戻った。

 「そう言えば、祐一さんが帰ってくるわよ」

 「えええっ!?」

階段を途中まで登ったところでそんなことを言われて思わず足を踏み外してしまった。

 「わ…」

ぐるぐると、天地が入れ替わって、気づいたら一階の床に転がっていた。

 「階段は転がる場所じゃないわよ」

 「お母さん、それより祐一が帰って来るって…」

 「ええ、姉さんの都合で、祐一さんが一人になるからうちに来るのことになったのよ」

 「わ…」

それが始まりだった。

 

 

はい、名雪7年前(最後は違うけど)SSでした。
途中出てきた女の子は、もちろんあゆです。
あゆは、どんな気持ちでまっていうたのでしょうか?


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