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第16章

》 ふたりの小夜曲(セレナーデ)〜栞編〜 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




祐一「栞……」

目の前にうつっている栞。

その目を、ぐっと見つめる。

栞「はい…」

何かを期待しているような瞳でそれを返してくれる。

だったら、それに応えなければ…。

俺は、一歩栞に近づき…。

祐一「やっぱり、下手だ」

栞「…普通、そう言うことは、もう少し遠回しに言う物です」

祐一「しかし、一見幼稚園生に描けそうに見えて、本当に幼稚園生に描けそうなところに、何とも言えない趣がある」

栞「………」

祐一「とくに、この自動車の立体をあたかも展開図の様に強引に平面にしてしまうところ、ピカソか幼稚園生か、栞ぐらいの………」

栞「………」

あまりに、栞が静かなので、ふと栞の方を見ると……。

さっ……さっ……。

黙々と、木炭を走らせていた。

ちなみに、栞の周りの美術用具は全て俺からのプレゼントだ。

……っていうか、栞へのプレゼントというと美術用具しか思いつかなかった。

祐一「ひょっとしたら、もしかして………怒ってるのか?」

栞「ひょっとしなくても……です」

そして、もう一度俺の方を見上げて。

栞「そんなこと言う人、嫌いです」

いかん、これ以上臍を曲げられると流石にまずい。

祐一「おっ、この木は素晴らしいじゃないか、地面と一体感があって、まさに空に伸びていこうとする自然の力が…」

栞「……これは、今通りがかった人です…」

祐一「ひ、人…!?」

そうだったのか…。

栞「そんなに下手ですか…?」

フォローは逆効果……というか、とどめだった。

栞「…少しは、上手になったつもりだったんですけど…」

ううっ、この場で機嫌を取るには……アイスでも買ってくるほか無いか。

財布が入っているのを確認すると、すっくと立ち上がった。

栞「………」

真剣にクロッキーに描いているので俺の行動は気付かれていない。

そっと、その場を離れると、近くのコンビニまで出ていって、バニラアイスを2つ買ってくる。

もう12月になったというのに、ちゃんと売ってるから不思議でしょうがない。

祐一「ほら、差し入れだ」

栞「わ、頂きます〜」

と、まあ、こんな風に簡単に機嫌が直ってくれるから扱いやすい。

……。

クロッキーには、相変わらず何だか訳の分からないものが描かれているが、今日はこれ以上突っ込むのはよしておく。

声「栞、相変わらず下手ねえ」

ぐあ、どこからともなく、栞に槍を突き刺すような声。

栞「…お姉ちゃん」

香里「相沢君も大変ね」

いや、この事態を大変にしているのは、明らかに”美坂 香里”だ。

祐一「いや、俺はこの絵は素晴らしいと思うぞ」

栞「さっきまでと言ってたことが違います」

祐一「いや、方針替えしたんだ」

アイスという最終手段を使った以上、この場でこれ以上不機嫌になられると非常に不味い。

栞「じゃあ、この絵のどこが気に入ってくれたんですか?」

祐一「そ、そうだな……この人物が、いかにも生命力が溢れていて良いんじゃないか?」

さっき、木と間違えた所を指さした。

栞「そこは、描き直して木を描いたんです………」

……自らの手で、とどめを刺してしまった。

香里「栞、いい加減に自分の絵がメチャクチャだってこと自覚しなさい」

栞「お姉ちゃんも、嫌いっ!」

と、本当に香里に背中を見せてしまう。

祐一「おいっ、香里。お前、とどめを刺して…」

香里「明日には、機嫌なおってるわよ」

……それまでどうすりゃいいんだ。

声「おお……」

ふと、後ろからそんな声が聞こえてきた。

俺、栞、香里の3人が同時にその人を振り向く。

そこにいたのは、初老の紳士という感じの人だった。

紳士「こ、この絵を描いたのは……」

栞「私ですけど…」

おずおずという感じで栞が名乗った。

紳士「す、素晴らしいいぃっ!!!」

祐一「うそおおおおおっ!!!」
香里「うそおおおおおっ!!!」

 

 

★      ☆      ★

 

 

 『一席』

そんな文字が、栞の絵の下に書かれていた。

祐一「なあ、香里……」

香里「何よ…」

祐一「これは、奇跡……だよな」

香里「え、ええ……」

コクコクと肯く香里。

栞「祐一さんも、お姉ちゃんも、まだ信じてくれないんですか?」

祐一「と、言われても…………そうか、これは悪い夢だな」

香里「そうね、それなら納得行くわ」

栞「………」

祐一「早く起きないと、学校に遅刻するな」

栞「………」

祐一「微かだが、栞が怒っている気がする」

栞「微か…では無いです」

香里「じゃ、相沢君。後は頑張って」

祐一「あっ、香里まてっ!」

勿論、待つことはなく、スタスタと歩いていってしまった。

栞「祐一さん……」

祐一「はい…」

将来、尻に敷かれそうだな…。

そんな事を頭の片隅で考える。

栞「そんな事言った罰です。ディナー、誘ってください」

ディナー。

普通は『夕ご飯』という栞があえて、そういう単語を使ってきた。

と言うことは、ラーメンライスとかじゃ不味いんだろう。

祐一「よし! それじゃ、天才美術家・美坂 栞のデビュー記念だ奮発するかっ!」

栞「はいっ」

頭の中で『天災美術家』という単語が思い浮かんだが、いうのは止めておく。

栞「それで、どこに連れて行ってくれるんですか?」

祐一「駅前のやきとり屋だな」

栞「それ、ディナーじゃないです…」

いつも通りにからかいながら、展示会場を出た。

祐一「ぬおっ…」

外に出るといつから降っていたのか、かなりの雪が降っていた。

車がいくつか、雪に埋もれていた。

栞「降ってますね……」

祐一「そうだ、これだけ降ってくれれば、作れるんじゃないか?」

栞「そうですね…」

でっかい雪だるま。

それは、去年の冬には出来なかったことの1つだ。

祐一「よし、じゃこれから雪だるま制作にかかるぞっ!」

栞「はいっ!」

嬉しそうに、傘も差さずに雪の降る街へ飛び出した。

栞「ディナーは明日です」

祐一「忘れてくれなかったのか……」

栞「はいっ、約束ですからっ」

 

 

今度はしっかり冬の話です(^^;;
しかし、栞の絵ってどんな絵を描いてるんでしょうねぇ
異次元だの、顕微鏡で見たところの……って
実は、密かな謎なのかも知れない


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