※ このSSは、KEY制作のKanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。
「………」
「……」
「………」
「……」
「………」
「……」
「………」
「……」
「………」
「……寝てるのか?」
「起きてるよ〜」
いつもの調子で話しかけてくる祐一に、いつもの調子で応えた。
「だいたい、いまこうやって歩いてるよ……」
誰も人のいない商店街を、祐一と二人で、歩いていた。そう、今日はデートの日だ。
「いや、名雪のことだからな。寝ながら歩いたり、寝ながら飯を食っても全然不思議じゃない」
「うー、そんなことないもん」
「そのうち、額にフォークを刺しても痛がらなくなると思うぞ」
時々、祐一の言う事はよく分からない。
「フォークは、イチゴを口に運ぶためのものだよ」
「また、思いきり偏った考えだな」
歩く。
「きっと、名雪の前世は、後少しでイチゴサンデーが食べられるって所で、息絶えたんだろうな……」
「え……そうなの?」
「……真に受けるな」
歩く。
「ま、そう言うわけだから。今日も取りあえず、百花屋だな」
「食べるよ〜」
ふと、前を見ると、目の前に百花屋さんがあった。あ、でも歩行者信号が点滅して、赤になりかけている。
「名雪、急ぐぞっ!」
「あ、まってっ……」
祐一は飛び出す。
そして、そこへ何かが突っ込んでくる。
……トラック!
そう認識出来たときは、もう遅かった。
「祐一っ!!」
ドンっ、という重たい音と共に……、祐一の体は、木の葉の様に吹き飛ばされて……壁に激突した。
………。
……。
………。
「そんな、嫌だよ、祐一っ……」
電子的な音しか、聞こえない場所。
祐一は、そこで全身を包帯に包まれていた。
「祐一っ、酷いよっ。ずっと一緒にいてくれるって、言ったのにっ!」
どうせ、寝ているだけと、その肩を揺らす。だけど、祐一は目を覚まさなかった。そのからだは、生きていると思えないくらいに、冷たくて硬かった。
ピッ………、ピッ………、ピッ………、ピッ………。
ただ、祐一の心臓の鼓動を知らせるその音だけが、生きている証だった。
「駄目だからね、死んじゃ。ほんとに……、イチゴサンデー100個でも、許さないんだよっ?」
だけれど、唯一の証も……止まる。
ピーーーーーーーーーーーー………。
「祐一ーーーーーーーーーっつ!!!」
★ ☆ ★
ジリジリジリジリジリジリジリジリジリ!
「え? え? 祐一!?」
まったく訳がわからなかった。
大きな目覚ましを抱いて泣いている……、そして、その目覚ましは、早く起きろと言わんげに鳴り続けている。
………。
あ、さっきのは夢だったんだ…。
とはいっても、もうよく夢の内容は覚えていない。ただ、でも、あの悲しみだけははっきりと思い出すことが出来る。
きっと、祐一に話したら、「なんて不吉な夢を見るんだ!」と、怒るに違いなかった。
………。
「名雪〜、もしかすると起きたのか?」
扉の向こうから、いつもの祐一の声が聞こえてきた。そんな当たり前なことに、ほっとしてしまう。
「うん、起きたよ。すぐに行くから、先に下に降りてて」
「わかった。大雨とひでりと大雪と雷の対策もとらないといけないからな」
「どうして?」
ゆっくりと起きあがりながら、扉の向こうの祐一に訊いた。
「名雪が、自力で起きたんだ。その位のこと起こるだろ?」
「祐一嫌いっ!」
そういうと、すこし笑い声が聞こえた後、トントンと階段を降りていく音が聞こえた。
今日は、日曜日。
そして、祐一とデートの日だった。
★ ☆ ★
「………」
「……」
だけど、折角のデートもどこか上の空だった。
あの、夢の中での祐一が頭から離れなかった。
「ほら、よそ見しながら寝てると、ぶつかるぞ」
「え?」
言われて前を見ると、ビックリするほど目の前に電柱が……。
ゴンっ!
鈍い音だった。
「さて、行くか」
それだけをいって、立ち去りそうになった祐一のコートを掴んだ。
「冗談だって。痛かったか?」
「痛いよ〜、普通はもっと早く、そう言う声をかけてくれるもんだよ〜」
「ま、俺は普通じゃないからな」
まだ、少しだけ痛い額を擦りながら言った。
「それより、さっき酷いこと言わなかった?」
「なにが?」
「わたし、よそ見しながら寝るなんてこと出来ないもん」
「出来そうな気がして、怖いんだよな」
「もう、知らないもん」
ぷい、とそっぽを向くけど本当は怒っていない。
でも、これはわたし達のちょっとした遊びみたいなもの。
祐一は、百花屋へいこうと言っている。
「ま、そんなに怒るなって、百花屋で奢るから」
ほら、ね。
「うん、イチゴサンデ〜」
だけど、そこまで言った所で、強烈な既視感におそわれた。
これは……、あの夢とそっくり!?
「どうした、置いてくぞ?」
少し前で、こっちを振り返る祐一。こっちを見ながら歩いていたら、左右の車なんて分からない!
「祐一、トラックがっ!」
「はい?」
思わず、声を出してしまった後で。目の前で、ぽかんと口を開けている祐一がいた。
「トラックがどうした? っていうか、視線が集まってるじゃないかっ」
「え、でも、トラックが……」
「商店街の中にトラックなんて入れるわけがないだろ?」
「え。あ、そうか」
当たり前だ。
「やっぱり、寝てたんじゃないか?」
「うん、そうかも……」
★ ☆ ★
怖い。
今のわたしは、祐一に支えられている。
お母さんが、車に轢かれた時。
もう、助からないって、そう思いこんだとき……。
あの時、祐一がそばにいてくれなかったら、わたしはどうなっていたか分からない。
もう、祐一がいてくれたら、わたしは大丈夫だ。
でも、その祐一を失ったら?
お母さんだって、いつも側にいてくれるわけじゃない。
もし、二人を失ったら……。
「具合でも悪いのか?」
その言葉に、視線を上げると心配そうな顔をした祐一がいた。
「名雪が、イチゴサンデーを目の前にしても食べないからな」
「あ、うん。ちょっと嫌な夢。見たんだよ」
「嫌な夢?」
「うん……」
カチャっと、祐一がコーヒーカップをソーサーに戻した。
「祐一は、わたしが死んじゃったりしたら悲しい?」
そう言うと、祐一は少しだけ、驚いたような顔をしてから答えた。
「そりゃ、悲しいに決まってるだろ」
「うん、わたしもだよ……」
「俺が死ぬ夢でも、見たのか?」
祐一は、普通の日常会話のようにあっさりと言った。
「うん、見たよ。それで今朝は目が覚めたの」
「そりゃ毎日、死んでくれたら起こすのが楽で良いな」
「良くないよ……」
ただ、硬く握った拳に力を入れた。
「怖いんだよ。祐一が、いなくなっちゃったら、どうしようって……」
きっと、どうすることも出来なくて……、あの時と同じように……。
「そんなこと、考えてもしょうがないだろ?」
「そんなこと、分かってるよ」
カラン、と音がして、イチゴサンデーに突き刺してあった、スプーンが倒れた。
「やっぱり、怖いんだよ……」
「後ろ向き、後ろ向きに考えてるから怖いんだよ。笑ってろよ。そうすりゃ、怖くない。それでも、怖かったら俺がそばにいてやるから」
「……うん」
これ以上言っても、祐一を困らせるだけかもしれない。そうおもって、頷いておいた。
「分かった!」
「え?」
「怖くなったら、怖がればいい」
「え……」
「何度だって、怖がればいい。俺がその都度、名雪を笑わせてやる。一生だ」
「え……」
何度か、聞いたような言葉。
だけど、その言葉が嬉しくて……。
心に届いて……。
「祐一、すごく恥ずかしいこと言ってるよ……」
「バカ、こっちだって恥ずかしいんだ!」
見ると、異様に店内の視線を集めてしまっていた。
「うん、でも嬉しいよ」
そう、今は、目の前に祐一がいてくれる。
わたしを守ってくれている人がいる。
それが、なにより嬉しかった。
「あ、イチゴサンデーっ!」
かなり、形のかわってしまったそれを、これ以上変らない様に、大急ぎで食べ始めた。
「あと、それにな……」
「なに?」
「どっちかいなくなっても、なんとかなるものもあるしな」
え?
そんなことがあるんだろうか?
「え、今ここでやってよ」
「バカっ! 出来るわけないだろっ!」
大声で言って、再び視線を集めてしまう。
「家に帰って、夜になるのを待て」
わたしは、あとでその意味を知って赤面することになる。
祐一の、バカ……。
ふえー、Kanonの読みきりSSを自分のHPにUPするの半年ぶりなんですね
ということで、名雪のお話です。
こう言うとき、女性ってのは弱いですよね。
祐一には、しっかり支えてもらわないと行けませんな。
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