※ このSSは、KEY制作のKanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。
「ふぅ……」
思わず、ため息が出て、相沢さんの家(正確には、水瀬さんの家)を出た。
別に、ため息をついたからといって、それは呆れたとか、疲れたというものではなかった。
嬉しかった。
そう、嬉しくて出たため息……、だと思う。
十二月六日。
それが、自分の誕生日だということを完全に忘れていたと言えば、それは嘘になる。それ自体にほとんど意味を感じていなくても、実生活で必要なものでもある。それにカレンダーを見てしまえば、その日が近づいていることなど意識しないでも頭に浮かんでしまう。
だけど、まあそれだけの話だった。
そこに、それ以上の感情など生まれなかった。きわめて、事務的にその日を処理していた自分がいた。
それは、両親が私に、あまりに無関心だったせいだろうか? それとも、私が生まれつきそうだったのか。
「でも、次からは少しだけ、違うかもしれません……」
さっきまでの、相沢さん達の様子が思い浮かんだ。
最初は、真琴が呼んでいるというので、それに着いて行っただけだった。だけれど、そこにいたのは、真琴だけではなくて……、どうしてそのまま、私の誕生日会となった。
人数多いから、私のアパートじゃ無理だろう、という相沢さんのそのときの言葉と仕草から、それはだいぶ前から計画されていたであろうと思った。
あまり、こういう経験が無いものだから良くは分からないけど、普通の誕生日会だったと思う。
その間、私はどんな顔をしていただろうか?
きっと、不機嫌そうな顔をしていたに違いなかった。
でも、それでも、あの場所にいられて私は嬉しかった。嬉しいと感じることが出来た。 笑い方を知らないわけではない。ただ、突然のことにどんな顔をしていいか分からず、いつも通りの顔になってしまっていただけだった。
今となれば、笑っておけば良かったとも思っているのだけれど、それは文字通り後の祭だった。
そして、一つ気づいたことがあった。
今まで、寂しいとか悲しいとか思わなかったのは、楽しい誕生日を知らなかったからだと。きっと、来年に何も無かったら、寂しいと思うに違いなかったから。
こんな私でも、変っていけるのかな? と思う。
相沢さんの周りには人が集まる。みんな、私が持っていない、色んなものを持っている人ばかりだった。
そんな、彼女達、彼達といることで、私はどう変るのだろう? それでも変わらないところはなんだろう? そして、彼女達、彼達も私といることで、なにか変るのだろうか?
そんなことを考えていると、自宅のアパートに着いた。
親はいないだろう。
両親は離婚して、私は父親に引き取られた。小学三年の時だった。そして、中学にあがると、その父親も滅多に家にいることは無くなった。ただ、親としての義務は果たしている、とでもいいたげに、私の口座に毎月お金が振り込まれるだけだった。
それでも、私が帰る場所だ。この地方は、十二月にもなれば、じっとしているとそれだけで固まってしまいそうになるほど寒い。早く、温かい部屋に入ろう。
階段を昇って二階へ行くと、ポケットから鍵を取り出して、いつもの様にドアを開ける。
「おかえり」
「はい、ただいま……はい?」
余りにも自然な声だったので、つい当たり前の様に答えてしまった。
この家で、そんな迎えの挨拶などしてくれる人はいない。でも、今の声は聞き覚えがあった。
「相沢さん?」
「おう」
ひょっこりと、まるで悪戯に成功した子供のような顔をして相沢さんが現れた。
「風呂にお湯張ったから、いつでも入れるぞ。ちなみに入浴剤は、近くのドラッグストアで売っていた『草津の湯』だ」
「どうして、ここに?」
訊かないと、説明をしてくれないだろうと思って、お風呂はおいておいて、まず訊ねた。
「ん? お前、真琴に合い鍵渡してただろ?」
確かに。
真琴が帰って来た後、不安そうな真琴に、私は「何かあったら、いつでも来て」と、合い鍵を渡していた。
「それで、それを借りてな」
自慢げに話す相沢さんだが、私は呆気にとられる他に無かった。
「ああっ。祐一、本当にやってるっ!」
私の背後から別の声。名雪さんのものだった。
「祐一、本当にやっちゃうとは思わなかったよ……」
「何があったんですか?」
相沢さんでなく、名雪さんに訊く。
「祐一が、最後の仕上げに、部屋を温めて、お風呂を沸かしておくんだって……」
「そうですか……」
私の方が先にでたはずなのに、わざわざ大急ぎで先回りしてこんなことをしたのかと、驚きと呆れが混ざったような感じだった。
「帰るよ〜、それから女の子の部屋に勝手に入ったら怒るよ」
「はいはい、分かったよ。それじゃ、天野、また明日な」
「え? はい、また明日」
なんの悪びれた様子も無く、相沢さんは帰っていった。名雪さんは「ごめんね」と一言言ってから、後を追うように出ていった。
残ったのは、暖房で温かくなった室内と、お湯の張られたお風呂。
「………」
そして、耳に残っている、迎えの挨拶。
「…おかえり」
その言葉を、口に出してみた。
それも、含めて今日のプレゼントだったのかもしれない。
彼のことを、知らないころだったら、なんて非常識な、と怒るところだが、彼の人となりを知った今なら、これが彼の優しさなのだと思える。
「ありがとう、ございます」
誰に聞こえるわけでもそう言うと、お風呂へ入る準備をした。いや、している途中でひとつ気づいた。
「……就寝の挨拶には来ませんよね?」
いくらなんでも、と考えながらお風呂へ入った。
………。
「おやすみっ!」
だけど、こうしてその甘さを実感することになる。
「……カセットデッキのタイマー?」
タイマーは、二三時五九分にセットされていた。
という訳で、美汐誕生日SSです。
あまり、イベントにあわせてSSとか書かないんですが、
なんとなく、書いてしまいました。あまり、お祝いっぽく無いけどね。
ちなみに、タイトルは挫折です。うぐぅ。
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