SS

 

第4章

》 喜遊曲(ディベルティメント) 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




あゆ「祐一君っ!」

パタパタという感じであゆが病院から出て来た。

祐一「分かったから普通に出てこい」

あゆ「うぐぅ…普通だもん…」

自動の回転ドアを押し開けるようにして、俺の名前を呼びながら出てくるのが普通の出方なのかは非常に疑問だ。

祐一「普通に出てくる奴は、自動の回転ドアを押し開けたりしないぞ」

あゆ「だって、早く祐一君のところに行きたかったんだもん」

かなり恥ずかしいことを言ってないか? あゆは。

祐一「回転ドアの隣に普通のドアがあるだろっ!」

びしっと、指さしてやる。

あゆ「あっ、ホントだ…」

気づいてなかったんかい!


★      ☆      ★


なぜ、あゆが病院から出てきたかと言えば……まあ、早く言えば検査だ。

7年もの間、意識を失っていてそれが戻ったのだから、医者としても興味深いというわけだ。

検査の結果、頭を打った後遺症も全くないらしく、ほっとしている。

もっとも、しばらくはTVのニュースになったり、ちょうどネタが無かったのか、ワイドショーに取り上げられたりして騒がれてしまったものだ。

まあ、それも過去の話で今はあゆは有名でも何でもない。

俺たちの奇跡を話したわけでもなく(っていうか、話しても信じて貰えないだろう)、話はそれっきりと言うわけだ。

………。

それと、これはあまり言いたくない話だが、当面の問題はあゆの家庭だ。

7年前に母親を失って、父親はそれ以前から居なかったようだ(事情は訊いてないが)。

入院と言うことで、これまで生活の場を気にすることもなかったが、意識を取り戻し、後遺症もないと無いと分かった今病院にいるわけには行かなかった。

親戚は、近い人がおらず一度もあったことの無い相当に遠い親戚を見つけるのがやっとなんだそうだ。

しかたなく、養護施設か……と、言ったところで例の秋子さんが登場。

なんと、水瀬家で生活と言うことになってしまった。

法律的なことは聞いてないが、養女にするのかもしれない。

まあ、そこら辺は秋子さんに考えがあるのだろう。

で、検査入院していたあゆを俺が迎えに来た………と、まあこういうわけだ。


★      ☆      ★


あゆ「でも、本当にボクが暮らしてもいいんだよねっ」

その状況が信じられないのだろう。

俺だって信じられない。

っていうか、秋子さん以外の人には怒濤の展開だったのだ。

祐一「ま、家族だからな」

あゆ「うんっ、嬉しいよっ」

家に着くまで、終始にこにこ顔だった。

………。

と、水瀬家に着いたとたんにその顔が真剣な顔になり、動きが止まる。

祐一「なんだ、考える人ごっこか?」

あゆ「………」

あれ…? 「ち、ちがうよっ!」とかいう返事が返ってくると思ったんだが…。

祐一「おーい、あゆあゆ〜」

そういって、あゆの目の前で手をひらひらと振ってみる。

あゆ「うぐぅ…あゆあゆじゃないもん……」

やっと、反応してくれた。

祐一「で、なに、『考える人ごっこ』してるんだ?」

あゆ「そんな事しないもん」

祐一「じゃ、さっさと入るぞ」

先に俺が中に入ろうとする………が、あゆの方は動こうとしない。

祐一「あゆ…?」

様子が変だ。

ドアを開けようとしていた俺は、くるっと向きを反転してあゆの元へ戻る。

祐一「ここで、寝泊まりする気か?」

あゆ「そんな事いってないけど…」

不安げな表情…。

…あ、そういうことか。

祐一「不安なのか…?」

あゆ「……うん」

頷く。

あゆ「もしかしたら、これも夢なんじゃないかって…」

…あのとき。

不安定な自分の位置づけを見てしまったときの事…。

夢の中に居るんだって、7年間を否定されたときの恐怖。

あゆ「いま、ドアを開けちゃったら、その時に全部幻の様に消えちゃうんじゃないかって…」

祐一「………」

あゆ「あはは……もう夢じゃないって、分かってるのにね…」

その時のどうしようもない恐怖。

あゆは、そういうものを全部溜め込んでしまうやつなんだ。

祐一「じゃ、一緒に入るぞ」

あゆ「え? 一緒って…」

あゆの手をつかんで(一見、親子連れのような感じだ)一緒に入ろうとする。

あゆ「うぐぅ、ボクは子供じゃないよ…」

祐一「いいから、まずは右足からだ、ゆっくり踏み出すぞ」

あゆ「う、うん……」

そろっと、いう感じで一歩を踏み出す。

…。

……。

あゆ「前に出たよ」

ちなみに、一歩出すまでの間1分近くかかっている。

俺は、今まで生きていて一歩を出すのにこんなに時間をかけたことはない。

祐一「次は難しいぞ、左足だ」

あゆ「うん…」

…。

……。

同じくらいの時間をかけて左足を右足の前に持っていく。

いま、通りがかりの人がこの様子を見たらどう思うだろうか。

…不審人物以外には見えないな。

………。

……。

………。

あゆ「着いたよっ」

祐一「ああ…」

まさか、こんな狭い(まあ、この辺では大きい方だが)家で門から玄関までに10分もかかるとは考えても見なかった。

祐一「よし、ノブをつかめ」

あゆ「うん…」

最初に、中指でちょんと、触れてからすぐに引っ込めるように手を引く。

そして、ゆっくりとノブを掴んだ。

俺はその上から一緒にノブを掴み…。

祐一「よし、あけ………」

ガチャアァッ!

あゆ「わああっ!」

祐一「ぬおっ!」

ドアの方が先に開いた。

祐一「もちろん、ドアが勝手に開くはずが無く、そこには唖然とその状況を見つめている名雪が居た」

あゆ「うぐぅ…状況解説しないでよぉ……」

パニくっていたが、俺のぼけに突っ込む余裕はあるようだ。

名雪「なにやってるの?」

こっちは、突っ込もうともしない。

あゆ「あはは……」

…笑うしかなかった。


★      ☆      ★


あゆ「ただいまっ!」

名雪のおかげというか、なんというかですっかりいつもの笑顔に戻っていた。

秋子「あら、お帰りなさい」

まるで、昨日までもそうだったかのように迎える秋子さん。

改めてすごい人だと思う。

秋子「とりあえず、家具を揃えないとね」

名雪「じゃ、明日にでも一緒に商店街に買いに行こうよ」

あゆ「うんっ」

部屋は、階段の正面の空き部屋(以前、真琴が使っていた部屋だ)を使うことになったが、いまは来客用の布団が敷いてあるだけだ。

祐一「あゆは、段ボールを10箱もやれば十分ですよ」

あゆ「…うぐぅ…段ボールじゃヤだよっ…」

まあ、喜ぶ奴はないな。

名雪「あゆちゃんをいじめちゃだめっ」

おお、名雪が真地面にあゆをかばっているっ!

きっと、妹でもできた気分なんだろう。(同い年だが)

祐一「しかし、あの商店街に家具屋なんてあったか?」

名雪「何軒かあるよ〜」

あの商店街は結構広いから、どこにあるのか分からない。


★      ☆      ★


キンッ!キンッ!

まるで金属のように澄んだ音が室内に響く。

祐一「あゆ…」

あゆ「なに?」

祐一「これは何だ……」

目の前の棒状の黒い物体。

それ同士をぶつけると。

キンッ!、と甲高い音が鳴る。

あゆ「お昼ご飯っ!」

祐一「どこがだっ!」

元がなんだったのか……聞かないでおこう。

祐一「秋子さん、夕飯はこれを炭にして焼き鳥でも焼きませんか?」

秋子「あら、名案ね」

あゆ「うぐぅ…」

一人、むくれるあゆ。

名雪「あゆちゃん、今度は一緒にご飯作ろうよ」

あゆ「うんっ」


★      ☆      ★


あゆ「やったっ、またボクの勝ちっ!」

嬉しそうに、最後の札を捨てる。

祐一「バカなっ!」

夕食後に始まったゲームだが、これであゆの5連勝になる。

名雪「あゆちゃん、強いよね」

秋子「ほんとにね」

あゆにこんな特技があるとは知らなかった。

祐一「まあ、これと食い逃げしか特技がないからな」

あゆ「うぐぅ、食い逃げは特技じゃないもん…」


★      ☆      ★


こん、こん…。

ん…?

ゲームも終わり、部屋でのんびりしてると、そんな音が聞こえてきた。

こん、こん…。

祐一「あゆか…?」

あゆ「…うん」

祐一「入ってるぞ」

あゆ「うぐぅ、ここトイレじゃないもん」

祐一「じゃあ、開いてるぞ」

というか、相変わらず鍵がかからない。

カチャ…と、ドアが開く。

祐一「どうしたんだ?」

あゆ「うん、祐一君とお話がしたくて…」

そういって、中に入ってくる。

祐一「どうだ勉強の方は?」

あゆ「難しいよ…」

あゆは小学校の高学年と中学校の内容がすっぽりと抜けてしまっている。

そこで、参考書と名雪に教わっての勉強中なのだ。

来年度からは高校に入りたいらしく、まじめに勉強している。

あゆ「分数のわり算できないよ〜」

……先は長そうだ。

………。

あゆ「ねぇ、ベランダに出ようよ」

祐一「そうだな…良い風が吹いてるしな」

あゆ「…祐一君、やっぱり高いところ駄目なの?」

祐一「俺の高所恐怖症は筋金をコンクリートで補強してあるんだ」

あゆ「そうなんだ」

風がふっと吹いて、俺のあゆの髪の毛をなびかせた。

あゆ「…祐一君」

祐一「ん?」

あゆ「ボク、幸せだよ」

どこか、遠くの方を見ながら言った。

あゆ「優しいお母さんが居て、お姉ちゃんがいて、……そして、好きな人が居て…」

遠くのほう…それは、失われた家族だろうか。

あゆ「ほんとうに、幸せだよ………」

どこか悲しげな表情。

『…お母さんが、いなくなっちゃったんだ』

今の生活が幸せだから…。

『…ボクひとり置いて、いなくなっちゃったんだ』

よけいに、それが失ったときの事を考えると…。

『ボク、もうお母さんがいなくなるのは嫌だよっ!』

………。

祐一「あゆ…」

あゆ「うぐ…?」

うっすらと涙がにじんでいた。

祐一「お前は、もうひとりぼっちじゃないんだ…」

あゆ「……」

祐一「俺は、お前のそばにずっと居る。お前をひとり置いたりはない」

いま、俺が言えるのはそのくらいだった。

あゆ「うん、祐一君だもん。信じるよっ!」

もう、あゆはいつも通りの笑顔だった。

…7年という時間を経て、再び動き出す二人の時間。

あゆ「そうだ、明日の朝ご飯はボクが、作るねっ!」

祐一「それだけはやめろっ!」

ただ、本当に大切な時の存在を、確かめながら……。



はい、あゆ後日談です。しかし、あゆの父親はどうしたんでしょうね?
死別か離婚か……。
しかし、秋子さんの養女ってのはあれでしたかね?
祐一の見た幻の中で、あゆが家族になっていたの見て、こんな感じにしてみました。


 このSSの評価をお願いします。送信後、一覧に戻ります。



SSトップへ

YPFトップへ