SS

 

第5章

》 求憐誦(キリエ)-前編 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




名雪「ボタン、わたしが押してもいいかな?」

ボタンとは、バスを止めるときに押すやつだ。

祐一「ああ、好きにしてくれ。」

子供ならいざ知らず、べつにボタンを押したら料金が半額になるわけでもない。

そして、バスは病院前へと止まる。

そして、歩道橋を渡ると病院の中に入る。

名雪「じゃあ、行って来るよ」

とことこ、という感じで受付の方へ向かう。

病院というのは、秋子さんのお見舞いだ。

一時はICUでかなりやばい状況だったらしいのだが、その後個室に移って、いまは大部屋にまで移っている。

名雪「貰ってきたよ〜」

『見舞い』と書かれたバッジ。

どうやら、これをつけて中に入る決まりらしい。

名雪は、それを胸の所につけるが、俺はそのままポケットにしまう。

名雪「つけないとダメだよ〜」

祐一「うー、めんどいなぁ」

仕方なく、もう一度出してそれを、ズボンの所につける。

祐一「それで、何階だ?」

名雪「うん、5階だって」

秋子さんは、あちこちを打ち付けたため、いろんな病棟を回っている。

この前は、整形外科だったのだが、今回は脳外科らしい。

チン、と音がしてエレベーターから外に出る。

祐一「暗いな」

なんとなく、薄暗い感じだ。

名雪「こっちだよ」

名雪に連れられて、通路を進む。

『水瀬 秋子 様』

そして、たどり着いた。

中にはいると…。

秋子「あら、来てくれたの」

まだ、頭に包帯が巻かれている物の元気そうだった。

名雪「お母さん、大丈夫?」

ベッド横の椅子に座りながら訊く。

秋子「ええ、でも仕事の方が大丈夫じゃないでしょうけど」

祐一「退院はまだなんですか?」

正直、秋子さんが居ないと食卓が寂しい。

名雪の料理もなかなかだったが。

秋子「そうですね、この検査が終われば退院だという話ですから、新学期が始まる頃には退院できそうですね」

名雪「ほんとっ!?」

名雪の顔が、パッと明るくなる。

それは、俺にしても同じだっただろう。

秋子「名雪、もう少し静かに喜んで」

名雪「あ…」

病室だということを忘れていたらしい。

 

★      ☆      ★

 

その後、しばらく様子を話したりした後、見舞い時間の関係もあって病室を出て、帰ることにする。

祐一「どうするんだ? この後」

名雪「うん、良いお天気だから、服でもみていこうと思うんだよ」

…以前、名雪の服探しに付き合ったことがある。

あれこれ、何時間も迷って結局買わなかったりしてた。

祐一「俺も、ちょっと用事があるから、こっから別行動だな」

名雪「…うん、そうだね」

すこし、不満げな顔をしているところを見ると、一緒に見て貰いたかったらしい。

名雪「じゃあ、先に行くね」

祐一「ああ、じゃあまた明日な」

名雪「家、一緒…」

不満げな顔をしつつも、先に行く名雪。

俺もその後を、追うようにして……

− 月宮 あゆ −

…え!?

不意に視界に入った文字列。

何処だ? どこにこんな物が…。

ぐるっと、周りを探す。

だいたい、こんな所にあゆの名前があるはずが…。

『月宮 あゆ 様』

…あった。

秋子さんの部屋とは、二つ離れた所の部屋だ。

祐一「…あいつ入院してたのか」

道理で、ここ最近会わなかったわけだ。

祐一「……食い逃げでもして、壁にでもぶつかった、なんていうのが落ちだろう」

顔だけでも見せておこうと思ってはいってみる。

祐一「………」

ベッドは6つあるが、その上に居るのは二人だ。

一人は、お婆さん。その隣にもう一人居る。

あれが、あゆだろう。

中に入り、その様子をうかがう。

…あゆは眠っていた。

お婆さん「お前さん、この子の知り合いかい…?」

その横のお婆さんが、珍しそうに声をかけてきた。

お婆さん「良かったね、あゆちゃん。ここ何年も訪ねてくる人なんて、居なかったから…」

祐一「え…!?」

何年も?

なんだ、それ!

お婆さん「7年間も、ずっと寝たきりだからね……わたしとのつきあいも長いよ」

祐一「ずっとって、7年間一度もっ!?」

お婆さん「ああ、一度も」

……理解できない。

…そうだ、人違いだ。

人違い。

思って顔をのぞき込む。

それは、俺の知ってる、月宮 あゆの顔だった。

壁には、ダッフルコートや羽付きリュックもかけられている。

お婆さん「そのコートと、リュックは私があげたんだよ」

……間違いない。

こいつは……、今目の前に居るのは俺の知っている、月宮 あゆだ。

だったら、いままで何度と無く商店街で会っていたのは誰だって言うんだ!?

祐一「この子…あゆのこと…知ってるんですか…?」

お婆さん「ええ、ちょっとした騒ぎになりましたからね。」

暇だったのか、それとも話好きなのか、語りだした。

お婆さん「もう、7年前になるのかな……」

後ろのカレンダーの西暦を確認して言った。

お婆さん「むかし、あそこ森に大きな木があった…」

大きな木が……。

お婆さん「この子と、その友達はその木に登って遊んでいて、謝って落ちてしまった」

…赤い雪。

お婆さん「幸い、友達の方はちょっとした怪我だったらしいが、あゆちゃんはこの通り」

…凍った時間。

お婆さん「どう言うわけか、親や親戚も顔を見せないし…可愛そうなものだよ…」

何かが、記憶の底から浮かんでくる。

…止まらない、出血。

…出来なかった、指切り。

お婆さん「ところで、あんたはあゆちゃんの、どういう知り合いなんだい?」

祐一「昔の……ずっと昔の…友達ですよ…」

それだけをいって、俺は病室を出た。

 

★      ☆      ★

 

病院を出てからも、俺は考え続けた。

あゆが木から落下した。

それは、思い出した。

それから、7年もああしていたというのは、本当なのだろう。

あの婆さんが、俺にうそをつくとも思えない。

…もっとも、あの婆さんが呆けていたら話は別だが。

祐一「…そうだ!」

図書館。

確か、駅近くにあったはずだ。

俺は、駅行きのバスに乗って、図書館に向かう。

確か、新聞の縮小版みたいなのがあるはずだ。

俺は、地方紙の新聞の縮小版を探して、それを机の上に広げる。

7年前………1992年だ。

時期は、俺が帰る日の前日だから……。

祐一「…あった」

『7才女子が木から転落、重体−
6日午前、木に登っていた遊んでいた子供2人のうち、1名が誤って落下。
病院に運ばれたが、意識不明の重体』

俺は、その記事だけをコピーすると、家へと帰った。

…一体、何だというんだ!

俺が見ていたのは、幻だったのか!?

………。

…違う。

あゆは、名雪や秋子さんとも会っている。

だったら、これは一体……

 


はい、名雪後日談です。元来ほのぼの系が書けない性格のため、こーゆー
展開になってしまいます。うぐぅ、暗いよぉ。




SSトップへ

YPFトップへ