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第5章

》 求憐誦(キリエ)-後編 《

※ このSSは、KEY制作Kanonを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてKEYが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




その日は、結局ろくに眠れずに朝を迎えた。

結局、名雪にあゆのことを訊くのは止めておいた。

…恐かったからだ。

 「誰…?」

と、怪訝な顔をされることが。

名雪の部屋を素通りして、キッチンに入る。

名雪「おはよ〜」

そこには、いつも通り朝ご飯の準備をしている名雪の姿があった。

朝といっても10時過ぎだが……。

今が春休みで本当に良かったと思う。

そうじゃなければ、毎日遅刻で、生活指導の教師に目をつけられていたことだろう。

名雪「はい」

皿の上にトーストをのせられる。

そして、その上に目玉焼きを乗せて頂く。

…まだ、秋子さんには及ばないがそれでも美味い。

足りない分は、年の功か? なんて口が裂けても言えないが。

名雪も、フライパンを片づけると俺の正面に座る。

名雪「祐一はどうするの?」

今日の予定だろうか? 今後の人生の事だろうか?

祐一「そうだな…」

どうしても、あゆの事が気になる。

祐一「病院だな」

名雪「まだ、お見舞いにいける時間じゃないよ…」

祐一「その前に、差し入れを持っていかないとな」

名雪「お見舞い品…」

不満気な顔の名雪を残して、一人外に出る。

名雪「もう、暖かいね〜」

…いつのまにか付いてきていた。

時々、驚異の(いつもと比べてだが)フットワークを見せる時がある。

名雪「それで、お母さんに何を持っていくの?」

祐一「いや……秋子さんにじゃないんだ……」

名雪「そう…」

何か言いたげな顔だったが、深く考えずに探すことにする。

 

★      ☆      ★

 

もう、かなり暖かくなってしまったが、まだあるだろうか?

しかし、いつもの場所にその屋台はあった。

祐一「たいやき、つぶあんとこしあん、3つずつ」

そうして、6個のたいやきを買う。

名雪「…たいやきが好きなの? その人」

祐一「ああ…」

言葉少なに病院へと向かう。

毎日のように病院へ名雪と通っていたが、今日ほど緊張したことはない。

あゆの存在が名雪の一言で決まってしまう。

そんな気がしたからだ。

そんなことを考えながら、5階へ向かう。

まだ、面会時間ではないが特に注意を受けることも無く、病室の前に立った。

『月宮 あゆ 様』

そう書かれたプレート。

名雪の顔のほうを見る。

祐一「知ってるか?」

一瞬。

名雪「知ってるか…じゃないよ。あゆちゃん、入院してたの?!」

不機嫌そうな顔で、俺に言った。

俺は、とりあえず胸を撫で下ろす事が出来た。

祐一「ああ、7年前からずっとな……」

名雪「7年前って…」

先に中に入る。

昨日はいた、婆さんは今日は居なかった。

しかし、あゆは居た。

ぽつんと一人で。

無機質な壁に囲まれて…。

祐一「あゆ、今日はたいやき買ってきてやったぞ。一緒に食おうぜ」

ベッドの上に座ると4つをあゆの枕のところに置き、2つを俺が持つ。

祐一「名雪は、つぶあんとこしあんどっちだ?」

と、訊こうとして止めた。

祐一「どっちが、どっちだかわからん。こっちでいいな」

一方を強引に渡すとそのままたいやきを頭からかぶりつく。

祐一「やっぱ、焼き立てが一番だな」

何も答えないあゆにそう言った。

名雪「祐一、説明して」

たいやきも食べずに言ってくる。

祐一「説明できる奴が居るくらいなら、俺が聞きたいくらいだ」

名雪「………」

祐一「俺の初恋の相手が、このあゆだったんだ」

名雪「え…」

祐一「覚えてるだろ、7年前。俺がおまえを含むこの街を拒絶した時…」

名雪「うん…」

静かに肯く。

祐一「その時の、原因がこれだ。あゆが木から落ちて、それで死んだと思って…それで思い出ごとこの街を封印した…」

名雪「……思い出したよ」

何を思い出したのか?

その時の事件の事なのだろうか?

名雪「じゃあ、私たちにあっていた、あゆちゃんは…」

秋子「多分、祐一さんに逢いたかったのよ」

名雪「お母さん…」

祐一「秋子さん…」

いつから居たのだろうか?

達の背後には秋子さんが立っていた。

秋子「約束していたんでしょ?また逢うって。だからよ」

知っていたのだ、秋子さんは。

秋子「でも、駄目よ。面会時間以外に来たら」

そう言うと、何事も無かったかのように戻っていった。

 

★      ☆      ★

 

面会時間はとうにすぎて、夕闇が目前まで迫っていた。

でも、俺はあゆの側から離れることが出来なかった。

そして、名雪も側に居続けてくれた。

ありがたかった。

………。

……。

………。

…ゆっくりと。

それでも、ゆっくりと時間は進んでいった。

名雪「祐一…」

祐一「なんだ?」

名雪「ううん、なんでもない」

………。

……。

………。

名雪「祐一…」

祐一「なんだ?」

名雪「わたしね、祐一があゆちゃんの事好きなの知ってたよ」

祐一「…え?」

突然、何を言い出すんだ? こいつは…。

名雪「わたしが言ってもしょうがなかったから、いままで言わなかったけど」

そう言って、あゆの髪の毛を撫でてやった。

名雪「祐一、言ってくれたよね。わたしの側にずっと居てくれるって」

…あの目覚ましに…。

祐一「ああ、覚えてる…」

名雪「だから、わたしも祐一の側だよ」

まっすぐな目で俺を見る。

名雪「良かったこと、悪かったこと、綺麗なもの、汚いもの………いろんなこと、全部祐一と一緒に見ていくよ」

名雪は、こんなにもしっかりした奴だったんだ。

祐一「ああ、そうだな。一緒だな」

名雪「うん」

これから、まだまだ色んな事がある。

でも、俺と名雪が一緒なら……。

ただ、今は全ての事実をしっかりと焼き付けて…。

 


はい、無事前後編で完結です
思ったよりかは、暗い展開にはならずに済みましたね。
でも、あゆ病の方にはきつい展開でしょうか?
次は、美汐シナリオSSかな?


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