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※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)
「よ、みさき先輩、待ったか。」
家の前で、風を楽しむかのように立っていた、みさき先輩に声を掛ける。
「ううん、いま来たところだよ」
はははっ、先輩と待ち合わせの時は必ずこの会話で始まることになっている。どうやら『今来たところ』はみさき先輩のお気に入りのフレーズのようだ。
あ、…そういや、オレってまだ先輩って付けて呼んでるんだよな。学校は卒業したわけだから先輩はつけなくても良い気もするが、どうも先輩とつけてしまう。
ま、先輩もそれほど嫌そうじゃないしな。
「今日は、どこに連れていってくれるの? この前から楽しみにしてたんだよ〜」
笑顔で訊いてくる。
オレが、この世界に帰還してからかなり先輩とあちこちに行った。
もっとも高校留年なんぞしてしまって、受験生の身であるから毎週というわけにも行かないが、出来る限り時間を作って遊びに行くことにしている。
夏に、ふたりで海水浴に行ったときは良かった。
ストライプの水着が似合っていたのは勿論だが、波打ち際で、水と戯れている姿が完全に絵になっていた。
あの時、何枚か写真を撮っていたのだが、売りに出せば1枚あたりで、ん万は狙えるだろう。
「浩平君? なんか、黙ってるけど変なこと考えてない?」
ぐあ、ばれてる。
もっとも、先輩の水着姿の写真なんて勿体なくてとても他人に見せる気はないけどな。
「いや、全くこれっぽっちも少しも全然考えてないぞ」
「そうなんだ〜」
うっ、そんな顔してのぞき込まないでくれ〜。
「よっしゃ、じゃあ行くか」
この話題を振り切って、先輩の手をギュッと握ってやる。
「うん」
先輩も一人で外を歩くときは杖を持っているみたいだが、オレと一緒の時は杖なしで、オレが手を引いて誘導してやる。
「で、どこに連れていってくれるの?」
いや、訊くのは良いんだけど、スキップは危険だって先輩。
「今回は、大人らしく美術館だ」
「…え!?」
前から思っていたこと。
先輩は、性格はともかく見た目はお嬢様だ。例の水と戯れる先輩も絵になっていたが、美術作品に触れる先輩も、完全に絵になっていると思う。
「……そうなんだ」
スキップが止まった。
「よし、先輩買ってきたぞ」
「ありがと〜」
笑みで受け取る。
先輩が笑顔で受け取るものは、言うまでもないだろう。
ちょっと、電車で移動する時間を使っての楽しい(みさき先輩にとって)食事タイムだ。
「弁当箱5箱じゃ足りなかったか?」
「うーん、そんなこともないよ」
いや、多分というか絶対足りてないな。いつもなら8箱くらいは買って置くんだが、ほとんど売り切れていて5箱しか買えなかった。
ま、あとで食い足せば何とかなるだろう。
「お茶もあるぞ」
やっぱ、電車といったらこの半透明の容器に入ってるお茶だろう。
「うん」
…気のせいか? みさき先輩の食べる速度が遅い気がした。
「ごちそうさま」
………え゛!?
の、残した!?
「ごちそうさまって………先輩、4箱しか……食べて無いじゃないか?」
「うん、お腹いっぱいだから」
バカな!?
「先輩、出かける前に、大食い大会にでも出ていたのか?」
「ううん、そんなことないよ」
じゃあ、何だって言うんだ?
「…ダイエットだよ」
「そうか?」
なんとなく、腑に落ちないような感じを受けながら、電車に乗り続ける。
………。
……。
………。
目的の駅に着いた。
「先輩、おおきな駅だから気をつけろよ」
「大丈夫だよ」
点字板の上を歩いているのでしっかりしたものだ。
「あ、先輩。今の時間分かるか?」
「えっとね」
先輩が時計のふたを開ける。そして指で触って時間を確認する。
この時計はオレがプレゼントしたものだ。
ワンタッチでふたが開けられるようになっていて、文字盤を指で触って時間を確認することが出来る。
「1時20分くらいかな?」
「そっか、なら早速美術館に行こう。みさき先輩の旺盛な食欲は後で満たすことにしよう」
「そうだね…」
「よし、先輩。ここだ」
チケットを2枚買って、中に入る。小さい美術館なんで大した金額じゃない。
「みさき先輩、こっちだ。」
みさき先輩を呼んで、作品の前に並ばせてみる。
ただ並んだだけ。
うーん。なんか、足りないな。
「みさき先輩?」
「え? どうしたの?」
「なんか、さっきから無言じゃないか。」
しかも、下を俯いた感じで、いつもの先輩らしくない。
「うん…。ね、浩平君。どんな作品なのかな?」
どんな……か。
「いま、先輩の前にあるのは足の像だな」
リアルな足の像。…ま、それだけって言っちゃえばそれだけだ。
「…そっか」
「なんか、今日の先輩。寂しそうだな…どうしたんだ?」
「…なんでも、ないよ」
なんでも無いはずがない。
「ね、浩平君。こっちにはどんなのがあるのかな?」
「うーん、いちいち説明するのも面倒だな」
さっきのは、説明しやすかったけど、今度のは、なんか丸やら四角やらの物がぐちゃぐちゃに混じったような、置物だ。
…口でどうやって説明すりゃいいのか、分からない。
「……そっか」
「だから、先輩直接さわって確認して見ろよ」
「えっ!?」
大きな声を上げて驚く先輩。一気に周りの注目を浴びてしまう。
「…そんなことしたら、怒られるよ」
…怒られる?
「怒られないって、そういう美術館なんだから」
「えっ?!」
…なんか、話に行き違いでもあったか? これは。
「言わなかったっけ? この美術館は自由に作品に触って良いんだ」
「聞いてないよ〜」
ちょっとふてくされたような表情。
「と、まあそういうわけだから触ってみろよ」
「そうだね。さわってみるよ」
言って、みさき先輩が例の作品に触る。
「これは……たしかに説明しづらいね〜」
確かな笑顔。この笑顔だ、オレが見たかったのは。
「あ、これは何かな?」
べたべたと、触ってみる。
「うーん、これは顔かな?」
「おう、顔だ」
「じゃあ、これが首で……」
徐々に、手がしたに下がっていく。
と、その顔がじょじょに赤くなっていく。
「つ、次のみよっか」
裸婦像をべたべた、触っていたことに気づいたらしい。
…いや、見ている分には楽しんだが。
「あ〜、楽しかったねえ」
くるくるっと、まわりながらみさき先輩が美術館から出た。って転ぶって。
「おう、オレも堪能させて貰ったよ」
そんなこと言いながら、次はどこに行こうかと考えていた。
「今日は、本当に楽しかったよ〜」
「そっか、良かったよ」
って、またみさき先輩スキップしてるよ。転ぶって。
「本当は、浩平君と同じ物見れなくて寂しかったんだよ。でも、こんなところあったんだね〜」
「オレも偶然見つけたんだけどな」
そう、みさき先輩の瞳が光を捕らえられなくたって、他の方法がある。二人でそのものを感じていければいい。
方法は違ったって、心は一つだ。二人で、いろんな所に行って、いろんな発見をするんだ。
大好きなみさき先輩と。
「あ、でも少しお腹空いちゃったな」
少し…か。みさき先輩の『少し』なら4人前って所か?
「おっ! あんな所に回転寿司屋があるな。いくか!」
「うれしいよ〜」
ちなみに、みさき先輩は見えていないだろうが、『30分食べ放題』の看板がかかっている。この手の店があると、オレの財布も傷まないで非常に助かる。
「よし、いくか。みさきっ!」
オレは、初めて呼び捨てで呼んだ。これから、ずっと一緒にいるには『先輩』は余計だからな。
「いこう、浩平ちゃん!」
「うーっ! その呼び方はやめてくれ〜」
じゃれあいながら、寿司屋へと向かう。
さあ、この後の店主や周りの反応が楽しみだ。