第23章

》 a rainy day 《

※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)PS版とは内容が違うことが大いにあります。はい。




 

窓を叩く様な音が、その日を目覚めを促した。

寝起きの、ぼーっとした頭をゆっくりと振って起きあがる。

窓の外を確認するまでもなく、雨だった。

それと、ガタガタと家を揺らすような風。

暴風雨、というやつだった。

 「…折角の日曜なのに」

そう、呟いた。

 

★      ☆      ★

 

…雨。

雨には、良い想い出も、悪い記憶も内包していた。

…別れて。

…出逢って。

…また、別れて。

…再会して。

色んなものを、運んできて。

そして、洗い流していった。

…だから。

雨を見ると、時々不安になる。

…今、この幸せなときも流れていってしまう日が来るのだろうか…と。

 「…声が聞きたい」

髪を梳かしながらそう、呟いた。

あの人の声を聞くだけで、私はこの不安をうち消すことが出来る。

でも…。

あの人は、鈍感だから。

 

★      ☆      ★

 

ケーキを作ろうと思った。

幸いにして、材料は全部ある。

そう思って、ノートを取りだして、レシピをパラパラと見ていく。

…ピンポーン

暴風雨の音がする中、微かにチャイムの音が聞いてとれた。

この雨の中に…?

 「茜ぇ〜」

その後、聞こえてきた声。

詩子だった。

ノートを閉じて、玄関へ向かう。

 「…きっと、濡れてますね」

そう思って、タオルを一本とってから玄関へと向かった。

風の圧力に押されながらもドアを開けると、そこには予想通りの詩子と…。

 「……」
にこにこ。

予想外の上月さんが立っていた。

 『〜〜〜〜〜』

スケッチブックが濡れていて滲んでしまっているけど、こんにちは、と書かれていたことが分かった。

 「二人とも、早くあがって下さい」

もう一本のタオルを上月さんに渡すと、紅茶を入れようと思い、キッチンへ向かう。

ティーパックでいいか。

魔法瓶のお湯を軽く沸かし直して、そのお湯で紅茶を出した。

 「どうぞ」

 「ありがとう、茜」

 「……」
ぺこり。

二人が、体を拭きおわり、落ち着くのを待ってから、訊いてみた。

 「それで、今日はどうしたんですか?」

 「ほら、急に雨降ってきたじゃない。あ…茜は寝起きだから分からないか」

勿論、ちゃんと髪も整えて、服も着替えているけど、詩子には寝起きだということが分かってしまうらしい。

 「澪ちゃんと、商店街を歩いてたんだけどこれは、少しの雨宿りじゃダメだと思って茜の所に来たのよ」

茜も暇しているだろうし、と付け加えてから、2杯目の紅茶を要求してきた。

 「私は、ケーキを作ろうと思っていました」

ケーキ、という言葉を聞くと二人の顔がぱっと変わる。

 「あっ、名案。作ろう作ろう!」

 「……」
うんっ! うんっ!

二人とも、賛成の様だった。

 

★      ☆      ★

 

3人で作ろうということになったので、レアチーズケーキを作ることにした。

これなら、焼かなくても良いし簡単だ。

 「詩子は、ゼラチンを水に溶かして、上月さんは湯煎の用意をして下さい」

 「分かった」

 「……」
うんっ。

二人が頷くのを確認してから、チーズの裏ごしにかかる。

プルルルル……。

と、ちょうど裏ごしを始めた段階で、電話がかかってくる。

 「…でます」

軽く手を拭いてから、受話器を取る。

 「…もしもし」

と、受話器の向かうから声がかえってくる。

 『茜か?』

…受話器の向こうから、聞きたかった声が届いてきた。

 「はい」

 『いま、商店街なんだけど、この雨だからちょっと、寄らせて貰おうと思って』

内心、くすっと笑いながら話を続けた。

 「…構いません」

 『それじゃ、すぐ行く』

あの人が、キッチンに居る人達を見て、家の中が異様に賑やかになるのは、それから3分後だった。

 

★      ☆      ★

 

そして、4人でのケーキ作りとなった。

 「浩平は、生クリームをかき混ぜて下さい」

 「おう」

大分慣れてきた手つきで、生クリームをかき混ぜる。

 「しかし、こうしてると、前のクリスマスを思い出すよな」

かき混ぜながら、そう言ってきた。

 「私も、そう思いました」

新しいクリスマスの形が出来たのが、あの時だった。

そう、懐かしく思うと、その前のことが思いでになっていることに気付く。

時間というのは、ずいぶん違ったスピードで流れるのだと思う。

 「なぁ、茜」

 「…はい」

 「なかなか、泡立たないんだが、洗剤入れても良いか?」

食器洗い洗剤を見せながらそう言ってきた。

浩平なら、本当にやりそうだから怖い。

 「…絶対に嫌です」

 

★      ☆      ★

 

最後に、イチゴをのせて、レアチーズケーキは完成した。

わーい、と諸手をあげて喜ぶ上月さんと、さっそく切り分ける詩子。

 「ばかっ! なんで柚木の分がそんなに多いんだ!」

 「え? 折原君も食べるつもりだったの?」

 「当たり前だ!」

そんな光景を見ていると、自然に笑みが出てしまう。

…楽しい。

みんなと…。

浩平と居ると、そう思えるのだった。

 「茜〜、早く来ないと茜の分なくなっちゃうよ」

それは、大変だ。

 「すぐ、行きます」

 

★      ☆      ★

 

雨も止んで、用があるという上月さんと詩子が先に帰った。

 「オレも、もう帰るよ」

片づけをした後、そう言った。

 「分かりました」

二人で、外に出ると、七色の光が青空を染めていた。

 「虹…か」

浩平が、どこか感慨深げに呟いていた。

雨雲の暗い空を見ていたから、余計にその虹が綺麗に見える。

そして…。

今まで、辛いことがあったから、余計に今の幸せを大切にしていきたいと思えるのかも知れない。

だったら、お礼をしなくては。

大切な事を運んでくれたことに…。

 「…ありがとう」

そう、空の向こうに向かって呟いていた。

 「何だよ、そのありがとう、って」

浩平が訝しげに訊いてくる。

 「…秘密です」

 「ぐあ、気になるぞ……」

ただ、今の幸せがずっと続きますようにと、思いつつ…。

澄んだ青空を見上げていた。

 


なにかに、刺激を受けて書いた、茜後日談です。

茜に限りませんけど、ONEのヒロイン達にはその後には幸せになって貰いたいもんです。

………。

と、いうか気づけばONEのSSを書くのは5/29以来だったんですね。
ずっと、KanonのSSばっか書いてたからなぁ…。

もちろん、今後もONEのSSは書きますよぉ。

でも、予定は未定(^^;;


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