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※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)PS版とは内容が違うことが大いにあります。はい。
「まったく、みさきは…」 さっきまで、わたしの家で一緒に宿題をしていた友達の家へと向かっている。 「でも、ドジよね」 折角、頑張って片づけた宿題を家に忘れたら仕方ないと思うけど。 「あれ…?」 もう少しで、みさきの家に着くという所で、疑問が浮かんだ。 「誰も……居ないんだ…」 でも、雨戸は開いているし、門も半開きのままだったからすぐに帰ってくると思うけど。 「気付くわよね…?」 そんな些細な疑問を残しながら…。
「遅いね、みさき…」 目の前で、同じ登校班の子が心配そうに声をあげた。 「みさきの事だから、絶対くだらないことで遅れてると思うけど」 「みさきの事だから、絶対先に行くと怒るよ」 「それは、そうね……」 とはいえ、みさきだけの為に班全員を遅刻させるわけにもいかない。 「遅刻とか、休むって話聞いてないわよね?」 「うん、聞いてないよ」 こう言うとき、普通、親兄弟が連絡をしに来る筈なんだけど…。 「ねぇ、もう間に合わないよ」 たしかに、私たちだけならどうにでもなるけど、1年生や2年生の事を考えるともう行かないといけないだろう。 「じゃ、行きましょうか」 みさきの事だから「朝の会」を待つ間に、学校への近道を通って遅刻ギリギリで来るに違いない。 それを疑いもしなかった……。
「先生さようなら、皆さんさようなら」 そんな毎日の挨拶をして、学校での一日が終わる。 「みさきも、風邪をひくことなんてあるんだね」 周りは無邪気にそう言った。 「ねえ、雪ちゃん。新しいクレープ屋さん出来たんだって。みんなで一緒に行かない?」 「………」 「雪ちゃん?」 「……なに?」 「なに、じゃなくて、クレープ屋さん」 「あ、ごめん。今日は用事があるから」 用事はいま出来たという方が正確だった。 「そっかぁ、格好いいお兄さんとか居るかは明日報告するねっ」 「別にわたしは、そんなこと気にしてないけど」 「クールだねえ」 そんなやり取りをした後、数人で教室を出ていった、一緒にクレープ屋に向かうのだろう。
どうして、嫌な予感はあたるのだろう? 「なによ、これ…」 まるで廃墟を思わせるようなたたずまいに見えた。 「あれ? 雪ちゃんじゃない?」 そんな声が聞こえて振り返ってみると、隣の家のおばさんだった。 「こんにちは」 一応、挨拶をしてから本題に入る。 「みさきの家、どうしたか知ってます?」 「え? まだ誰も帰ってないの? 変ね……」 どうやらおばさんも何も知れないようだ。 「ただ……そうなる少し前に救急車が来ていたと思うけど…」 「救急車…?」 「ええ、学校に入っていったから、関係ないとは思うけど」 「そうですか」
公衆電話にはいって、財布からテレホンカードをだした。 『はい、中崎中央病院です』 「あの、そちらに川名みさきという子入院してますか?」 『少々お待ち下さい』 ………。 『ここには、そういった患者さんは居ませんね』 「そうですか、分かりました」 がちゃんと受話器を置いて。電話帳から写した電話番号をまた一つ消す。 『はい、北区救急医療センターです』 「あの、そちらに川名みさきという子入院してますか?」 『少々お待ち下さい』 ………。 『川名みさきさん……ですね』 「はい、そうです」 『昨日、運ばれてきてますね』 戦慄が走った。それを確かに感じることが出来た。 「え……なんで…」 だから、そうとしか言葉が出なかった。 いや、まだ可能性はある。 「病院……行ってみようかな…?」
「はぁ……」 もう何度ついたか分からないため息をつく。 「でも、連絡しないで休んじゃって怒ってるかな?」 コンビ失格だよね。 ………。 正直言って、いまどうして私が病院のベッドで寝ているか知らない。 ………。 ぐうっと、上半身だけ起こしてみる。 ………。 それにしても、退屈だった。 (ばか、お前が泣いてどうする!) (でも、みさきは…) ………。 そこで、私は聞いてはいけない話を……聞いてしまった。
………。 「好きなこと……全部…できなくなっちゃったね…」 そして、ずっと自分の目が見えないって分かってから…。 私は、みんなを病室から追い出すと涙を流さずに泣いた。
「ここ……か…」 翌日もみさきは来なかった。 受付で、『見舞い』の札を貰って『川名みさき』の病室へ向かう。 専用の病院服に身を包まれた人達の合間を縫ってその病室へ向かう。 「………」 返事はない。 「…誰……?」 今度は微かな声が返ってきた。 「わたしよ」 「………」 「はいるわね」 返事を待たずに、ドアを開けて病室へ入る。 「何やってるのよ、連絡もしないで」 「うん……ごめんね…」 その声にいつもの元気さはない。 「ちょっと、頭をぶつけちゃったんだよ」 「そう、でいつぐらいから学校へ来れるの?」 「わからないよ…」 「それまで、わたしがみさきの分までノートとってあげるから、早く帰ってきなさいよ」 「………」 わたしはしゃべり続けた。 「それでね、あの先生が、授業中にいきなりオナラしちゃって……」 「………」 「今日の給食は、煮込みラーメンだったんだけど、これが美味しくなくて…」 「………」 そんな他愛もないことを話し続けた。 「それじゃ、あたしは帰るわね。医者の言うことを聞いて、早く治しなさいよ」 なんの他意もない。今日一番の自然に出てきた言葉だった。 「…よく…言うよ…」 だけど、みさきの口からはわたしの聞いたことも無い声だった。 「みさき…?」 「知ってるんでしょう! 雪ちゃんだって! 私の目がもう見えない事くらい! 一生見えないんだって、知ってるんでしょう!」 え? 「みさき、それ…」 嘘でしょう…と続けたかった口がとまった。 「…まだ、涙…出るんだね……もう一生分、ないたと思ったのに……」 それは、ポジティブなみさきからは想像もつかないほどの自虐的な響きを伴ったものだった。 「雪ちゃん、わかるかな? 目が見えなくなるって」 「………」 「情けないよね」 「………」 「一人でトイレに行くことも出来ないんだよ」 「………」 「自分で、死ぬことも出来ないんだよ」 死ぬ。 「みさき…」 「こないでっ…」 近づこうとしたわたしを、みさきは拒絶した。 「来て欲しくなんか……ないよ…」 確かな拒絶。 「わたし……帰るわね」
辛かったから。 わたしは、どうすればいいのよ…。
みんな嫌いだった。 死ぬこと。 でも、私は死に方を知らない。 時間はかかると思うけど。
「おっはよ」 「え? あ、雪ちゃんおはよう」 自分に出来る精一杯で、朝の挨拶をする。 「ねぇねぇ、昨日のクレープ屋さん何だけど」 「どうしたの? 好みの人でもいた?」 「あ、居たのはおばさんだけだったんだけど、すっごく美味しかったよ」 「そう」 「だから、雪ちゃんやみさきも今度一緒に行こうよ」 「そうね、今度ね」 その今度がいつ来るのか…。 「あ、でもみさき、今日もお休みだって」 「え? そうなの?」 何も知らない人たちが勝手なことを言い始めた。
授業が始まった。
4時間の、授業が終わって給食の時間となる。 「きょう、雪ちゃん元気ないよね」 「そう? わたしはいつものわたしよ」 「そんなこと無いと思うけど…やっぱり、みさきが居ないから?」 「そんな訳無いでしょう」 そんな会話をしながら給食を、教室まで運ぶと前に並べた。 「さ、給食配るわよ! みんな並んで」 と、声をあげると一人だけ、とっくに並んでいてわたしがスープをよそるのを待ってる人が居た。 「みさきには、言ってないわよ、あなたは食べ物の事になると……」 「え?」 目の前に居たのはみさきではなかった。 「雪……ちゃん…?」 「な、なんでもないわ…」 必要以上によそってしまったスープを少しだけ、鍋の中に戻しながらそう言った。
午前中もそうだったように、午後の授業も全く身に付かなかった。 はしゃぎながら、帰宅の準備をしている人たちをどこか遠くから見つけながら今までの出来事を振り返ってみる。 ………。 「雪ちゃん、私、一人じゃ死ぬことも出来ないから……殺して…くれるかな?」 幻影のみさきがわたしにそんなことを言ってきた。 まほらの地。 そんなもの無いって…。 ………。 逃げてる……わたし…。
いつもは何人かで帰っている道を一人で帰る。 「おい、君ッ……風邪をひくぞ」 「え?」 言われて、初めて雨が降っていたことに気付いた。 「家、近くですから」 「そう? 早く帰りなよ」 いっそのこと、酷い風邪でもひけたら良かった。 雨がわたしから、少しずつ体熱を奪っていった。 「……」 その時、雨の匂いの合間を縫うかのように届いた香りがあった。 「あの子達が言っていたクレープ屋ね」 昨日は凄い行列だったらしいけど、流石にこの雨の中では並んでいる人はいないみたいだ。 「クレープアイスひとつ」 「え? ああ、クレープアイスね……」 程なくして、渡されたクレープアイスを掴んだ。 ………。 「…美味しい」 こんな状態なのに、それは目が覚めるほどに美味しかった。 「何やってるのよ、私は…」 残りのクレープを食べ終わったところで何かが差し出された。 「…これは?」 「いいから、これを差して早く帰りなさい」 すでにこれだけ濡れてしまったら、傘なんかを差しても意味はないだろう。 「ありがとうございます。すぐに返しに来ますから」 そして、一つ考えついたことがあった。
一時帰宅。 私の大好きな家。 お母さんが二階に行ったのを確認してから、台所に行く。 ……… 最後に、雪ちゃんにお礼が言いたいな。 5回目のコールで、やっと通じた。 『タダイマ デカケテオリマス ピーッ、ト ナリマシタラ ゴヨウケン ヲ オハナシクダサイ』 どうやら、雪ちゃんは居ないみたいだった。まだ、学校から帰ってないのかな? 「あ、雪ちゃん? みさきだよ」 「あのね……いままでありがとう。本当にありがとう……」 それだけを言って受話器を置いた。 電話が鳴った。 どうせ、すぐに鳴りやむだろう。 「はい…」 『あ、みさき? 私だよっ』 同じクラスの子からだった。 「うん」 『最近、来ないからどうしたんだろうって、思ってたんだ。そうそう、昨日のドラマ見た?』 「………」 適当に相づちをうっておいた。 『でもさぁ、あのシーンが…』 もう、楽しいシーンを見て笑うことも、悲しいシーンをみて泣くことも出来ないんだよね。 『最終回おもしろくなかったね』 「え?」 『みさきが考えてたのと違う結末になっちゃったね』 言葉が続かなかった。 『みさきが考えてくれた話の方が面白かったよ』 最終回が、面白くなかった? 私の方が面白い? 「そっか、そうなんだ…」 『どうしたの? みさき、なんか変だけど』 「ううん、大丈夫だよ」 『うん、もう明日は学校に来れるの?』 「あ、それはもう少しダメなんだ」 『あ、そうなんだ。はやく帰ってきてね』 「うん、そうするよ〜」 最後に、サヨナラだけを言って電話を切った。 チャンポーン。 その時、玄関のチャイムがゆっくりと鳴った。 「みさき、元気?」 闇の向こうから聞こえてきたのは雪ちゃんの声だった。 「あんまり元気じゃないよ」 「そう言うと思って、良いものもって来てあげたわよ」 「いいもの?」 ガサガサという、紙が擦れる音がしたかと思うと、そのあとで、ぷうんと良い香りが漂ってきた。 「クレープよ。味は深山雪見の保証付き」 そう言うと、私の手を取ってその上にクレープを乗せてくれた。 「…おいしい。おいしいよ〜」 口に広がる二日ぶりの食べ物。 「ね、美味しいでしょう」 思わず、涙が出てしまうほどそれは美味しかった。 「たくさん食べなさい、嫌な事なんてのは食べていれば忘れられるわよ」 「うん、そうだね。たくさん食べることにするよ」 そうして、私と雪ちゃんは、笑った。 えー、影響うけSS第2弾のみさき先輩&深山さんSSです。 |