第30章

》 一瞬への感謝 《

※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)PS版とは内容が違うことが大いにあります。はい。





 四方八方から聞こえてくるセミのうるさいほどの鳴き声。
 強いコントラストの影を作り出す強烈な日差し。
 今は、走っているかどうかも分からないような、錆びかけたバスの時刻表。
 そのローカル線の無人駅を降りたオレ達を迎えたのはそれだった。
「暑いです……」
 その髪の毛が、余計そう思わせるのか、それとも一応は冷房の付いていた列車から出てきた為か、麦わら帽子に、白のワンピースといういかにも涼しそうな装備の茜でも辛そうにそう言った。
「まあ、夏だからな……」
 都会では味わえそうも無い、強烈な「夏」を感じながら空を見上げた。
 何故、こんな所へ来たのか、話は三日ほど前にさかのぼる。

「宿泊券が当たった?」
 大学生となり、それまでよりずっと長い夏休みを、何をするでなく過ごしていた俺に、長森がそんな話を持ってきた。
「つまり、商店街の福引でペア宿泊券が当たった。でも、長森は乳牛の世話で動くことが出来ない。だから、俺と茜で行ってこいと、そういう事だな?」
「乳牛の世話じゃなくて、ネコ達の世話だよっ」
 そんな長森の声を無視しながら、その宿泊券に目をやった。書かれている住所は、一目でど田舎だと分かりそうな地名だ。まだ、車の免許を取っていないオレは、電車で行くほかに無いが、たっぷりと二時間はかかりそうだった。
 大して、面白いことはなさそうだ、だったら家で寝ていたほうが……、そう言いかけたとき、長森が先に口を開いた。
「捨てちゃうのもったいないもん。それに里村さんも、行きたがってるよ」
「茜がか…?」
 茜を動かすもんといえば、「甘い」か「可愛い」かどっちかだ。今回の場合はどっちにも当てはまらなさそうだ。
「うん、きっと行きたいと思ってるよ」
「分かった、訊いてみる」
 どうやら、長森を納得させるには茜に訊くしかなさそうだ。それで茜が断れば長森も納得が行くだろう。
 居間から抜けて、電話の受話器を取る。携帯も勿論持っているが、通話料が馬鹿にならない。家からかけるときは、普通の電話を使うことにしてる。
 何度もかけて覚えてしまった電話番号にかけると、三コール目で相手が出た。
「はい。里村です」
 何度も聞いている、茜の声だった。
「この暑い中、わざわざ何も無いど田舎へ行く気はあるか?」
 なんて訊き方するんだよっ、という長森の声を無視して茜の返答を待った。
「行くのは、私と誰ですか?」
「ん、俺と茜の二人だけだけど?」
「行きます」
 即答だった。
「マジか…?」
「……はい」
 いつもと変わらない調子でそう答えてた。
「ワッフル屋は無いぞ」
「はい」
「怪しいぬいぐるみも売ってないぞ」
「はい」
 どうやら、行く気らしかった。

 あとは、そのまま長森にはめられる様にして、今にいたるという感じだ。
「とりあえず、宿に行くか」
「……はい」
 セミの大合唱のなか、田舎道を歩いていく。
「しかし、考えてみると二人きりってのも久しぶりだな」
「はい……」
 いつも、柚木や澪がいたような気がする。勿論、それはそれで楽しいのでそこに不満がある訳じゃ無い。だが、そうなると、やはり二人きりだということを意識してしまうのだ。
「……というより、辺りに人がいないぞ」
 駅から、もう十分は歩いているが、まったく人の姿を見ていない。
「本当に、人がすんでいるのか? この辺」
 そんな不安にも陥るというものだ。

 結局、たっぷりと三十分は歩いてやっとのことで、その宿に着いた。そして、その宿に着くまで、誰とも出会うことはなかった。
「ぷふぁーっ……」
 部屋に通されると、まずは冷たく冷やされた麦茶を一気に胃に流しこんだ。途中に自販機も無かったから、これが久々の冷たい飲み物だった。
「麦茶って、こんなにうまかったんだな……」
 その感想は、茜にしても同じだったらしく、美味しそうにコップになみなみを注いでやった麦茶を飲みほしていた。
 喉の渇きを潤して、改めて部屋を見てみると、そこは旅館とか宿とか、とりあえずそういう宿泊施設のような印象のまったく受けない部屋だった。どうみても「田舎の民家」だ。
「それで、どうする? この後は」
 時計で時刻を確認すると、三時。夕飯まではたっぷり時間がある。
「そと、歩きませんか?」
「ん、外か?」
 確かに、ここにいても面白いことは何も無い(テレビすらない)が、恐らくは外に出ても同じだろうと、俺ではまったく考えていなかった選択肢だった。
「ま、行ってみるか」
「はい」

 その宿から外に出る。
 やはり、迎えてくれるのはセミの声と強烈な日差し。
 夏の風景だった。
「それで、どこへ行くんだ?」
「……向こうに湖があるそうです」
「湖ね。ま、他に行くところも無いか」
「はい、行きましょう」
 そういうと、茜が先に歩き出した。
「……元気だな」
 慌ててその横に並んで、歩きながらそう言った。
「そうですか?」
 この暑さだというのに、茜はいつもと変わらない様子だった。
「……そうかもしれません」
 そういえば、茜は人ごみが苦手だった。だからかもしれない。
 そんな話をしていると、道は森へと続いていた。森の入り口のところに木製の看板が立てられていたが、腐っているようで判読は不能だった。そして、森に入ると、セミの声は更にうるさくなっていた。
「まあ、当然か」
 そう思っても、セミの声を聞くだけで暑いと感じてしまう。できれば鳴きやんで欲しいところだ。ヒグラシとかだったら、別だけど。
「ところで、その湖ってのは、まだなのか?」
「……見えました」
「ん? 本当か?」
 あまりにもタイミングが良すぎるので聞き返してしまったが、確かに先のほうに白くキラキラと光っているものがある。
「行きましょう、浩平」
「おう」
 いつもより、少しだけ元気な茜に押されるように、その湖へと足を進めた。

「ほぅ……」
 森に囲まれた湖。色は、薄く緑がかった青といった感じで奇麗なものだった。やはり近くに水がある為か、少しだけ涼しい。セミの声も小さくなったような気がする。
「……奇麗です」
「ああ、奇麗だ……」
 その光景に見とれたように、茜が言った。湖面が、夏の日差しをキラキラと反射しているさまは、確かに奇麗なものだった。だが、俺達が感動しているのは、ただ奇麗だから、という訳じゃない。
 ここより奇麗なところなんて、もっと沢山あるはずだし、TVや写真でそういうったものは、何度もみている。だが、ここにはもっと平凡な良さがある。
 今見ている光景は、永遠でないこと。
 写真と違って、いつでも同じ光景が見られる訳じゃ無い。こんな強い日差しじゃない日もあれば、水が干上がってしまうかもしれない。この光景を作り出している要素は、無数にあるのだ。
 そんな、無数の組み合わせが重なって、今だけの光景を作り出している。そんな感慨は、平凡な湖を彩ってみせるのに十分なものだった。
「浩平、みずう………きゃっ!」
 茜がオレに何かを言いかけたとき、ひゅうっと風が吹いて、茜のワンピースをなびかせていた。
「あっ……」
 だが、茜がワンピースを押さえようとした時に、その風は標的を代えたかのように茜の麦わら帽子を吹き飛ばしていた。
 勢い良く舞いあがった麦わら帽子だったが、飛ぶのに適した形ではないので、くるくるっと二、三回転すると湖面へ静かに落ちた。
「取りに行きます」
 そう宣言するかのように言うと、靴を脱いで湖の中へ、静かに入っていった。
「きゃっ、冷たいです」
 方足を湖に入れただけで、そんな黄色い声をあげた。
「そんなに冷たいのか?」
 これだけの日差しだし、浅い所は生暖かくなっていそうなものだが、意外と冷たいらしい。
「でも、気持ち良いです」
 そう言うと、ゆっくりと麦わら帽子の所まで向かっていった。
「転ぶなよっ!」
 澪ではないから、転んでも怪我はしないだろうが、服はびしょ濡れになってしまうだろう。
「はい、大丈夫です」
 ん? でも、白のワンピースが透けるって事は……。その光景を想像してみる。
 ……そのうっすらと透けるであろうものを想像すると、お約束だが何とも言えないものがあった。
「……浩平、変なこと考えていませんか?」
「…い、いや、何も考えてないぞ」
「声が、どもってます」
「う……」
 茜の奴。鋭いところがすこしだけ、長森に似てきたかもしれない。
「そんな事より、少し深くなってるんじゃないか? 髪の毛とか濡れるぞ」
 少しずつ、進んでいた茜だが、水は膝下近くまで迫っていた。
「………」
 茜がゆっくりと視線を下にずらす。当然、茜の髪も、ワンピースも膝下までの長さがある。
「……もう、濡れてます」
「……みたいだな」
 変な想像をしていたから、気付かなかった。茜は、ワンピースと髪の毛を、湖の中から引きあげたが、勿論手遅れだ。だが、別に怒っている様子でもない。それどころか、嬉しそうな表情にすら見える。それは、水溜りで遊んでいる子供のようなあどけない笑顔だった。
「可愛いな……茜は……」
 すこぶる自然に、そんな言葉が口から漏れていた。
「……」
 その言葉が聞こえたのだろうか? ワンピースと髪の毛を持ちあげたままの茜が、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……」
 そして、その顔を見て、こんどはオレが恥ずかしくなってしまった。
「ああ、オレが取りに行くよ」
 そんな恥ずかしさを紛らわせるかのように、靴を脱いで、ズボンを上にまくると、俺も湖の中へと入った。
「うおっ、確かに冷たいっ!」
 氷のようなとまでは言わないが、ぞくっと頭まで響くような冷たさだった。これは結構気持ち良いかもしれない。
 って、気持ちよがっていると、麦わら帽子が沈んじゃいそうだな。そう考えて、ザブザブと進んで麦わら帽子を取った。
「ほら……」
 と、茜に渡そうとして、オレの動きが固まってしまった。茜の両手は塞がっている。渡す訳には行かないし、まさか、濡れたままの帽子を被せるわけにはいかない。まあ、この天気だ、すぐに乾くだろう。
「よし、あがるか」
 ずっと、服をまくりあげたままの茜が辛そうだったので、そう言った。そういや、なんで茜はあがらなかったんだ? そう思って訊いてみた。
「楽しいですから」
「そうか……」
 確かに、こうして、二人きりでこんな所にいるなんて、なかなか出来ないことだ。そう考えるとすぐにあがってしまうのが、惜しく感じてしまった。
「茜……」
 気付くと、岸のほうを向いて、あがろうとしていた茜を後ろから抱きしめていた。
「……はい」
 いつも通り、静かに答えた茜が、俺の手を上から重ねていた。茜の柔らかくて、暖かい感触が伝わってくる。だが、当然の事ながらさっきまで、茜の手で支えていたものは、再び水の中だ。
「濡れるぞ……」
「かまいません……すぐに、乾きますから」
「そうだよな」
 ただ、腕に相手のぬくもりを感じて、俺達はいつまでもそうしていた。
 え〜、ほのぼの系です。言う人に言わせると、私の文章は、シリアスよりもほのぼの系に向いているそうです。とはいえ、今までは、おねかのの文章をそのまま書いていましたけど、今回は小説っぽく書いてみました。
 まー、最後の湖のシーンが頭に浮かんで、それを書こうと思ったんですけど、やっぱり、いまいち伝えきれなかったかな、と思います。
 やっぱり、スケスケにさせたほうが良かったかな?(を
そりゃ、そうと。ONEのSSが30章達成。おめでとう>自分


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