第31章

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※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)PS版とは内容が違うことが大いにあります。はい。





「しかし、あの由起子さんが結婚とはな」
 まったく意表をつかれた。
 何しろ、いきなり男の人を俺に会わせて、「この人と結婚するから」と、来た。あれには、いくらオレでも、ぽかんと口を開ける他には無かった。
 何でも、仕事の取引先の人らしいのだが、オレには別に大した問題じゃない。問題は、オレのすむ場所がなくなったという事だ。
 で、結局、何度かの親族会議の結果、晴れてオレの一人暮しが認められた……、とこういうわけで……。
 すなわち、その結果が、今目の前にいくつもあるダンボールの山だ。
「……浩平」
「ん?」
「……現実逃避しても始まりません」
「………そうだな」
 現実逃避で、引越しが片付くなら苦労は要らない。
「って、茜いたのかっ!?」
 さり気なく声をかけられたから、まったく気づかなかった。
「……さっきからいました」
 呆れたような表情をするが、まあ、オレたちにとってはいつものことだ。
「それに、浩平が手伝えと、言いました」
 そうだった。
 あまりの量に、一人での片づけを断念したオレは、茜にヘルプを頼んだのだ。
「あー、それじゃ、そこら辺のものを、そこら辺のダンボールにしまってくれ」
「……分かりました」
 こくりと頷くと、エプロンをして、作業に取り掛かった。
「よし、オレは一休みだな…」
「……」
「いや、やっぱりオレも頑張って、働こう」
 一秒で、方針転換したオレは、机の上のものを、ダンボールへと移し始めた。貴重な戦力も増えた事だし、何とかなるだろう。
「……持ち上がりません」
 ……貴重な戦力は非力だった。
「そこはオレがやるから、あっちを担当してくれ」
「……はい」
 重いものは任せられないが、逆を言えば軽いものなら……。
「……手が届きません」
 ……貴重な戦力は、背が低かった。
 今、気づいた事だけど、茜もこういう作業は苦手そうだった。そういえば、前に茜の部屋も散らかっていると言ってたな……。オレが行ったときには片付いていたけど。
 そんなことを思いながら、作業を続けた。
………。
……。
………。
「どうして、収まらないんだっ!」
「……はい」
 唖然として、すべて満杯になったダンボールと、まだ沢山の荷物が残っている部屋の中を見渡した。
「これだけあれば、個人の引越しは平気なはずなんだぞっ!」
「……」
 叫んでみても、何にもならない。
 どうする? ダンボールを買い足さないと駄目なのか? そう思ったとき、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だ?」
 首を傾げつつも、茜に一言言ってから、玄関へと向かった。
「あはは、どう? 片付いた?」
 だよもん星人だった。
「そうか! 部屋の荷物が全部収まらないのは、だよもん星人の陰謀だな!」
 というと、はぁ、と大きくため息をついた。
「何も企んでないし、だよももんもそんなに使ってないよ……」
「じゃあ、なんで収まらないんだっ!」
「浩平のしまい方が下手なんだよ」
 そう言うと、俺を置いて二階へと向かった。
「今、『だよ』って言ったじゃないか」
 言いながら、オレも二階へと向かった。

★      ☆      ★


「わあっ、すごい事になってるよっ!」
 が、長森の第一声だった。
「もう、浩平滅茶苦茶だよ……」
 そう言うと、折角オレが詰めたダンボールから中身を次々と取り出していく。
「なんでも、一緒にすれば良いものじゃないんだよ。ちゃんと、分けてしまって、あと、隙間を作らないようにして……」
 そう言って、ある程度出すと、今度はまたしまい始めた。すると、気の所為か容積がかなり小さくなった気がする。
「これ、いるの?」
 漫画雑誌や、昔遊んでいた、ボードゲームを指差してそう言った。
「いらない」
「いらないものを、しまわないでよっ」
 それらのいらないものを、丁寧に分別すると、 どこから取り出してきたのか紐で、縛ったり、袋に入れたりしていった。容積は更に減ったようだ。
「あと、箱に何しまっているか書かないと、引越しってから苦労するんだよ?」
 そういうと、マジックで箱に「衣類」とか「CD」とか書いていく。
 見事な手際だった。
「よし、この調子で頼むぞ!」
「もうっ!」
 と、むくれるだよもん星人は放っておいて、さっきから黙ってしまった茜に目を移した。
「………」
 浮かない顔だった。
 それは、長森には読み取れなかったかもしれない。茜の微妙な表情の変化を読み取れるのは、オレと詩子、あとは茜の家族くらいだろうか?(家族の方はよく分からないが)
「どうかしたのか?」
「……いえ」
 訊いてみても、いまいちはっきりしなかった。ただ、何かを堪えるような、我慢するような表情をするだけだった。
「……あ」
 数秒の遅れの後、やっとオレは気づいた。茜は自分が出来なかったことが、長森に出来た事が悔しいんだ。
 だけど、七瀬と違って茜は、自ら勝負をしようとはしない。それが、あの耐えるような表情になっていたのだ。
 別に、オレは長森一人に任せてもいいのだが、茜が納得しそうに無い。しかたない、オレが長森に声をかけるか……、と思ったとき。
「長森さん……」
 茜がゆっくりと口を開いていた。
「ん? どったの? 里村さん」
「……手伝います」
「うん、じゃあね、この本をまとめてしまってくれるかな? あ、本って重くなるから、小さい箱にした方が良いよ」
「はい」

★      ☆      ★


「片付いたな……」
「……はい」
 長森が帰った後の室内。あれだけ、あふれ返っていた荷物は、綺麗に箱に収まっていた。残っているのはベッドくらいだが、これは明日の朝にやれば良い。
「しかし、驚いたな」
 あの後、茜は長森に張り合うかのように、片づけをしだした。そして、手際のよさは、長森とそんなに、変わらないほどになったいた。それに、最後のほうでは茜の方から長森に指示を出す事すらあった。
 長森にコンプレックスでも持つんじゃないかと思われたが、それは杞憂に終わった様だ。いや、あの世話ずきの長森の事だ、こうなる事まで予測していたのかもしれない。それは、そうと……。
「ほんと、あんなに積極的になるとは思わなかったぞ」
「……浩平は、私の彼ですから」
 何かをやり遂げたような、顔でそう言った。
「どう言う意味だ、それは……」
 そして、茜が変わったのはオレがいたからだと思いたいし、事実そうに違いない。オレも、茜の影響は、いろいろなところで受けている。
 お互いが、お互いを変えていく。
 二人で生きていくってのは、そういうものなのかもしれない。
「つかれたよな、茜」
「…つかれました」
「つかれたときは、甘いものだよな」
「……はい」
 当然です、という感じで茜が肯定した。
「よし、じゃ山葉堂だな」
「急ぎます」
 オレ達は、こうして、生きていくのだろう。
 これまでも。
 そして、これからも……。


という事で、再開後初のSSは、ONE〜輝く季節へ〜の茜SSです。
しかし、長森がいまいち、だよもんとした感じになりませんでした(^^;;

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