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※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)PS版とは内容が違うことが大いにあります。はい。
「しかし、あの由起子さんが結婚とはな」 まったく意表をつかれた。 何しろ、いきなり男の人を俺に会わせて、「この人と結婚するから」と、来た。あれには、いくらオレでも、ぽかんと口を開ける他には無かった。 何でも、仕事の取引先の人らしいのだが、オレには別に大した問題じゃない。問題は、オレのすむ場所がなくなったという事だ。 で、結局、何度かの親族会議の結果、晴れてオレの一人暮しが認められた……、とこういうわけで……。 すなわち、その結果が、今目の前にいくつもあるダンボールの山だ。 「……浩平」 「ん?」 「……現実逃避しても始まりません」 「………そうだな」 現実逃避で、引越しが片付くなら苦労は要らない。 「って、茜いたのかっ!?」 さり気なく声をかけられたから、まったく気づかなかった。 「……さっきからいました」 呆れたような表情をするが、まあ、オレたちにとってはいつものことだ。 「それに、浩平が手伝えと、言いました」 そうだった。 あまりの量に、一人での片づけを断念したオレは、茜にヘルプを頼んだのだ。 「あー、それじゃ、そこら辺のものを、そこら辺のダンボールにしまってくれ」 「……分かりました」 こくりと頷くと、エプロンをして、作業に取り掛かった。 「よし、オレは一休みだな…」 「……」 「いや、やっぱりオレも頑張って、働こう」 一秒で、方針転換したオレは、机の上のものを、ダンボールへと移し始めた。貴重な戦力も増えた事だし、何とかなるだろう。 「……持ち上がりません」 ……貴重な戦力は非力だった。 「そこはオレがやるから、あっちを担当してくれ」 「……はい」 重いものは任せられないが、逆を言えば軽いものなら……。 「……手が届きません」 ……貴重な戦力は、背が低かった。 今、気づいた事だけど、茜もこういう作業は苦手そうだった。そういえば、前に茜の部屋も散らかっていると言ってたな……。オレが行ったときには片付いていたけど。 そんなことを思いながら、作業を続けた。 ………。 ……。 ………。 「どうして、収まらないんだっ!」 「……はい」 唖然として、すべて満杯になったダンボールと、まだ沢山の荷物が残っている部屋の中を見渡した。 「これだけあれば、個人の引越しは平気なはずなんだぞっ!」 「……」 叫んでみても、何にもならない。 どうする? ダンボールを買い足さないと駄目なのか? そう思ったとき、玄関のチャイムが鳴った。 「誰だ?」 首を傾げつつも、茜に一言言ってから、玄関へと向かった。 「あはは、どう? 片付いた?」 だよもん星人だった。 「そうか! 部屋の荷物が全部収まらないのは、だよもん星人の陰謀だな!」 というと、はぁ、と大きくため息をついた。 「何も企んでないし、だよももんもそんなに使ってないよ……」 「じゃあ、なんで収まらないんだっ!」 「浩平のしまい方が下手なんだよ」 そう言うと、俺を置いて二階へと向かった。 「今、『だよ』って言ったじゃないか」 言いながら、オレも二階へと向かった。 「わあっ、すごい事になってるよっ!」 が、長森の第一声だった。 「もう、浩平滅茶苦茶だよ……」 そう言うと、折角オレが詰めたダンボールから中身を次々と取り出していく。 「なんでも、一緒にすれば良いものじゃないんだよ。ちゃんと、分けてしまって、あと、隙間を作らないようにして……」 そう言って、ある程度出すと、今度はまたしまい始めた。すると、気の所為か容積がかなり小さくなった気がする。 「これ、いるの?」 漫画雑誌や、昔遊んでいた、ボードゲームを指差してそう言った。 「いらない」 「いらないものを、しまわないでよっ」 それらのいらないものを、丁寧に分別すると、 どこから取り出してきたのか紐で、縛ったり、袋に入れたりしていった。容積は更に減ったようだ。 「あと、箱に何しまっているか書かないと、引越しってから苦労するんだよ?」 そういうと、マジックで箱に「衣類」とか「CD」とか書いていく。 見事な手際だった。 「よし、この調子で頼むぞ!」 「もうっ!」 と、むくれるだよもん星人は放っておいて、さっきから黙ってしまった茜に目を移した。 「………」 浮かない顔だった。 それは、長森には読み取れなかったかもしれない。茜の微妙な表情の変化を読み取れるのは、オレと詩子、あとは茜の家族くらいだろうか?(家族の方はよく分からないが) 「どうかしたのか?」 「……いえ」 訊いてみても、いまいちはっきりしなかった。ただ、何かを堪えるような、我慢するような表情をするだけだった。 「……あ」 数秒の遅れの後、やっとオレは気づいた。茜は自分が出来なかったことが、長森に出来た事が悔しいんだ。 だけど、七瀬と違って茜は、自ら勝負をしようとはしない。それが、あの耐えるような表情になっていたのだ。 別に、オレは長森一人に任せてもいいのだが、茜が納得しそうに無い。しかたない、オレが長森に声をかけるか……、と思ったとき。 「長森さん……」 茜がゆっくりと口を開いていた。 「ん? どったの? 里村さん」 「……手伝います」 「うん、じゃあね、この本をまとめてしまってくれるかな? あ、本って重くなるから、小さい箱にした方が良いよ」 「はい」 「片付いたな……」 「……はい」 長森が帰った後の室内。あれだけ、あふれ返っていた荷物は、綺麗に箱に収まっていた。残っているのはベッドくらいだが、これは明日の朝にやれば良い。 「しかし、驚いたな」 あの後、茜は長森に張り合うかのように、片づけをしだした。そして、手際のよさは、長森とそんなに、変わらないほどになったいた。それに、最後のほうでは茜の方から長森に指示を出す事すらあった。 長森にコンプレックスでも持つんじゃないかと思われたが、それは杞憂に終わった様だ。いや、あの世話ずきの長森の事だ、こうなる事まで予測していたのかもしれない。それは、そうと……。 「ほんと、あんなに積極的になるとは思わなかったぞ」 「……浩平は、私の彼ですから」 何かをやり遂げたような、顔でそう言った。 「どう言う意味だ、それは……」 そして、茜が変わったのはオレがいたからだと思いたいし、事実そうに違いない。オレも、茜の影響は、いろいろなところで受けている。 お互いが、お互いを変えていく。 二人で生きていくってのは、そういうものなのかもしれない。 「つかれたよな、茜」 「…つかれました」 「つかれたときは、甘いものだよな」 「……はい」 当然です、という感じで茜が肯定した。 「よし、じゃ山葉堂だな」 「急ぎます」 オレ達は、こうして、生きていくのだろう。 これまでも。 そして、これからも……。 |