ONE SS第5章
〜みさきの章〜

※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)




「冗談……だよね?」

 浩平君の気配がきえて……、私は、アイスを持っていたことも忘れて、浩平君が居たはずの、ベンチに浩平君の感触を求めた。

 僅かに、ほんとうに僅かに暖かみが残っているベンチ。やっぱり、浩平君はさっきまで、ここにいたんだ。

「……冗談…………、だよ……ね」

 ……冗談なはずがなかった。もう、この付近に浩平君が居ない、それがわかっていた。

「浩平くんっ!!」

 それでも、浩平君の名前を叫んでみる。でも、凛と静まり返った公園からは、なんの言葉は返ってこなかった

 …恐怖。

 浩平君という支えを失って、次に感じたのはそんな感情だ。

 コワイ。

 まったく、知らない空間にいきなり放り出された感覚、いままで、浩平君と一緒にいた楽しいはずの公園が、まったく違う姿で、私を包み込んでいた。

 …どうしよう。どうやって……、歩き出せばいいんだろう。浩平君がいないのに…。

 今の私は、急に補助輪を失った自転車だった。

 もう、前に進めない。転んで立ち上がっても……、先にも、後にも……、進めない。

 動けない。

「みさき、みさきっ!?」

 聞き慣れた声が届いた。

 浩平君じゃない。

「みさき、どうしたの? こんなところで」

「……雪ちゃん」

「みさき、本当にどうしたのよ? 一人でここに来たの?」

 驚いたような声で、駆け寄ってきた。

「ううん、浩平君といっしょにだよ」

 いまはいないけどね、と心の中で付け加えておいた。

「浩平……、くん?」

 だけど、雪ちゃんの次の言葉は、私を更に絶望へと突き落とすものだった。

「誰?」


★      ☆      ★


 その夜、夢を見た。

「みさきちゃん。廊下走るとあぶないよ」

「大丈夫だよっ!」

 今日も、私は学校で遊んでいる。

 それは別に今行っている小学校が嫌いなわけでも、ほかの友達がいないわけでもなかった。

 楽しい。

 理由はそれだけだった。

 この学校は、みんないい人ばかりだし。おもしろいものがある。ここ数日は、いろんな特別教室を回っている。

 一昨日は美術室。昨日は音楽室。いろんな部屋に遊びに行った。

 がらっ。

 今日は、社会科資料室。最近、お気に入りの部屋。部屋の中心におかれている大きな地球儀。これが好きなんだ。

 地球儀をぐるぐるっと回してみる。

 まだ行ったことも、みたこともないようなところが、たくさんある。

 ほんとうは大きな地球。

 行ってみたいところが、たくさんある。

 大きくなったら、いろんなところに行くんだ。好きな男の人とね。

 飽きずにしばらく回していたら、おなかがぐーっと、なった。

 そうだ、学食に行こう。

 あそこのおばさん、また何かくれるかもしれない。

 そう思ってまだ回っている地球儀をそのままに、部屋を出ようとした。

 がしゃん。

 何かを、足に引っかけた。そう思った。


 暗闇。

 いきなり、目の前に完全な暗闇が出来あがっていた。

 どうして?

 はっきりしない頭。

 いま、何がどうなっているのか……、まったく分からない。

「みさきちゃん! みさきちゃん!?」

 声?

 そう、それは確かに声だった。

 暗闇の外から、ほんとうに遠いところから、声が聞こえる。

「誰か、先生よんできてっ!!」

 わたし……。

 ……どうなったんだろう。



 そこで夢は覚めた。

 それは、昔の夢だ。もう、しばらく見なかった夢。

 見る必要もない夢。


★      ☆      ★


「じゃあ、行って来るね」

 でかげ際に杖をとってから、外に出た。暖かい日差しを肌で感じとれることが出来た。

「今日は、いい天気だね」

 肌を柔らかく刺激する光。

 その光が生み出す、お日様の香り。

 目は見えなくても、こうして『晴れ』というものを感じ取る事が出来る。

 ………。

 私は、浩平君のいない世界に生きている。

 あれから、私は浩平君の影を探してあちこちを探して歩いた。

 不安だった。浩平君が、私と生きていた証。それが欲しかった。

 でも……、それは、得られなかった。

 どこにも、浩平君の影はなかった。

 それは、やがて浩平君という存在を私も疑い始めるほどだった。

 あれは、私が生み出した幻ではないのか……、と。

 弱気になっているのだ。

 そんな弱い自分に気づくたびに、自分に鞭を入れた。

 みさきっ、そんなことでどうするんだ!

 ……と。

 でも、それでも限界は近づきつつあった。


 私は、その限界を隠して前以上に明るく振る舞った。

 私が暗くなると、みんなが暗くなっちゃう。それは、一番辛い事だったから。

 でも、そんな限界を気づく人もいた。

「みさき、大丈夫? 最近、無理しているみたいだけど」

 一人はお母さん。

「大丈夫だよ。気のせいだよっ」

 大好きなお母さんに、心配をかけたくなかった。

「……みさき、本当にどうしたの?」

 もう一人は、雪ちゃん。

「ううん。本当に平気だよっ!」

「嘘、わかるよ」

 ………。

「……例の彼のこと?」

「…うん」

 そっか、と言って、雪ちゃんが私のそばに座る。

「私……、ふられちゃったのかもしれないよ」

 笑顔で言ったつもりだけど、ちゃんと笑顔になっていたのかはわからない。

「彼から、そう言われたの…?」

「ううん」

「じゃあ、信じなさいよ。あなたと、その彼の言葉を…」

「わたしを?」


★      ☆      ★


もし…オレがみさき先輩を忘れたら…

何があっても、必ず最後には先輩の側に居る

約束するよ、先輩。


★      ☆      ★


 そうだよね。浩平君、約束してくれもんね。

 私も、がんばらないとね。

「ありがとう、雪ちゃん」

「いいのよ。みさきが笑っていてくれれば、私も笑えるから」

「あっ、ちょっと格好良い。さすがは演劇部だね」

「それは、関係ないでしょう」

 それから、私は、お母さんや雪ちゃんに頼んで、字が上手く書けているかを見てもらったり、練習の手伝いをしてもらった。

 今度の年賀状はもっと綺麗な字で届けたいからね。

 浩平君、帰ってきたら、びっくりするくらい上手になっているんだ。

 そして、今まで待たせた罰に、沢山おごってもらうんだ。ね、浩平君?

 楽しい事、いっぱい教えてもらって……。

 美味しいもの一杯食べて……。

 想像するだけでも楽しい日々……。

 それに向かって、絶対に進んでいるから……、そう信じているから。

 信じているから……、願いはかなう。



「あしたは、いい天気だな…」


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