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※ このSSは、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)
「冗談……だよね?」
浩平君の気配がきえて……、私は、アイスを持っていたことも忘れて、浩平君が居たはずの、ベンチに浩平君の感触を求めた。
僅かに、ほんとうに僅かに暖かみが残っているベンチ。やっぱり、浩平君はさっきまで、ここにいたんだ。
「……冗談…………、だよ……ね」
……冗談なはずがなかった。もう、この付近に浩平君が居ない、それがわかっていた。
「浩平くんっ!!」
それでも、浩平君の名前を叫んでみる。でも、凛と静まり返った公園からは、なんの言葉は返ってこなかった
…恐怖。
浩平君という支えを失って、次に感じたのはそんな感情だ。
コワイ。
まったく、知らない空間にいきなり放り出された感覚、いままで、浩平君と一緒にいた楽しいはずの公園が、まったく違う姿で、私を包み込んでいた。
…どうしよう。どうやって……、歩き出せばいいんだろう。浩平君がいないのに…。
今の私は、急に補助輪を失った自転車だった。
もう、前に進めない。転んで立ち上がっても……、先にも、後にも……、進めない。
動けない。
「みさき、みさきっ!?」
聞き慣れた声が届いた。
浩平君じゃない。
「みさき、どうしたの? こんなところで」
「……雪ちゃん」
「みさき、本当にどうしたのよ? 一人でここに来たの?」
驚いたような声で、駆け寄ってきた。
「ううん、浩平君といっしょにだよ」
いまはいないけどね、と心の中で付け加えておいた。
「浩平……、くん?」
だけど、雪ちゃんの次の言葉は、私を更に絶望へと突き落とすものだった。
「誰?」
その夜、夢を見た。
「みさきちゃん。廊下走るとあぶないよ」
「大丈夫だよっ!」
今日も、私は学校で遊んでいる。
それは別に今行っている小学校が嫌いなわけでも、ほかの友達がいないわけでもなかった。
楽しい。
理由はそれだけだった。
この学校は、みんないい人ばかりだし。おもしろいものがある。ここ数日は、いろんな特別教室を回っている。
一昨日は美術室。昨日は音楽室。いろんな部屋に遊びに行った。
がらっ。
今日は、社会科資料室。最近、お気に入りの部屋。部屋の中心におかれている大きな地球儀。これが好きなんだ。
地球儀をぐるぐるっと回してみる。
まだ行ったことも、みたこともないようなところが、たくさんある。
ほんとうは大きな地球。
行ってみたいところが、たくさんある。
大きくなったら、いろんなところに行くんだ。好きな男の人とね。
飽きずにしばらく回していたら、おなかがぐーっと、なった。
そうだ、学食に行こう。
あそこのおばさん、また何かくれるかもしれない。
そう思ってまだ回っている地球儀をそのままに、部屋を出ようとした。
がしゃん。
何かを、足に引っかけた。そう思った。
暗闇。
いきなり、目の前に完全な暗闇が出来あがっていた。
どうして?
はっきりしない頭。
いま、何がどうなっているのか……、まったく分からない。
「みさきちゃん! みさきちゃん!?」
声?
そう、それは確かに声だった。
暗闇の外から、ほんとうに遠いところから、声が聞こえる。
「誰か、先生よんできてっ!!」
わたし……。
……どうなったんだろう。
そこで夢は覚めた。
それは、昔の夢だ。もう、しばらく見なかった夢。
見る必要もない夢。
「じゃあ、行って来るね」
でかげ際に杖をとってから、外に出た。暖かい日差しを肌で感じとれることが出来た。
「今日は、いい天気だね」
肌を柔らかく刺激する光。
その光が生み出す、お日様の香り。
目は見えなくても、こうして『晴れ』というものを感じ取る事が出来る。
………。
私は、浩平君のいない世界に生きている。
あれから、私は浩平君の影を探してあちこちを探して歩いた。
不安だった。浩平君が、私と生きていた証。それが欲しかった。
でも……、それは、得られなかった。
どこにも、浩平君の影はなかった。
それは、やがて浩平君という存在を私も疑い始めるほどだった。
あれは、私が生み出した幻ではないのか……、と。
弱気になっているのだ。
そんな弱い自分に気づくたびに、自分に鞭を入れた。
みさきっ、そんなことでどうするんだ!
……と。
でも、それでも限界は近づきつつあった。
私は、その限界を隠して前以上に明るく振る舞った。
私が暗くなると、みんなが暗くなっちゃう。それは、一番辛い事だったから。
でも、そんな限界を気づく人もいた。
「みさき、大丈夫? 最近、無理しているみたいだけど」
一人はお母さん。
「大丈夫だよ。気のせいだよっ」
大好きなお母さんに、心配をかけたくなかった。
「……みさき、本当にどうしたの?」
もう一人は、雪ちゃん。
「ううん。本当に平気だよっ!」
「嘘、わかるよ」
………。
「……例の彼のこと?」
「…うん」
そっか、と言って、雪ちゃんが私のそばに座る。
「私……、ふられちゃったのかもしれないよ」
笑顔で言ったつもりだけど、ちゃんと笑顔になっていたのかはわからない。
「彼から、そう言われたの…?」
「ううん」
「じゃあ、信じなさいよ。あなたと、その彼の言葉を…」
「わたしを?」
もし…オレがみさき先輩を忘れたら…
何があっても、必ず最後には先輩の側に居る
約束するよ、先輩。
そうだよね。浩平君、約束してくれもんね。
私も、がんばらないとね。
「ありがとう、雪ちゃん」
「いいのよ。みさきが笑っていてくれれば、私も笑えるから」
「あっ、ちょっと格好良い。さすがは演劇部だね」
「それは、関係ないでしょう」
それから、私は、お母さんや雪ちゃんに頼んで、字が上手く書けているかを見てもらったり、練習の手伝いをしてもらった。
今度の年賀状はもっと綺麗な字で届けたいからね。
浩平君、帰ってきたら、びっくりするくらい上手になっているんだ。
そして、今まで待たせた罰に、沢山おごってもらうんだ。ね、浩平君?
楽しい事、いっぱい教えてもらって……。
美味しいもの一杯食べて……。
想像するだけでも楽しい日々……。
それに向かって、絶対に進んでいるから……、そう信じているから。
信じているから……、願いはかなう。
「あしたは、いい天気だな…」