さよらなエトランジュ SS第1章
伝わる心・伝わらない心

※ このSSは、CLOVER制作さよらなエトランジュを元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてCLOVERが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




「透っ! はやくはやく〜っ!」
「お前は、朝ダッシュしながらじゃないと、登校出来ないのか?」
 俺の10m程先にいる晴香に声をかけた。
「だってだって、透とごいっしょさんだし、おひさまもオハヨウさんなんだよぅ。びゅ〜ん!!」
 結局、走らずにはいられないらしい。まったくもって元気なヤツだ。
 こっちがだりぃのは、変わらないのだが。と、思っていたら、いつの間にか晴香が俺の横まで戻ってきていた。
「透も走ろうよ〜」
「断る」
「でもでも、いっしょに走るとたのしいよ」
「そりゃ、お前だけだ」
「ザンネン」
 本当に、残念そうに言うとあっという間に俺の目の見えないところまで走り去っていった。
 まあ、すぐ先の角のところで待っているんだろうが……。
「元気が吸い取られている気はするな」
 ますます、学校に行くのがダルくなった。

★      ☆      ★


「ガッコにとうちゃく〜っ!」
「おはよ。剣咲君は、お久しぶりね」
 まるで、校門のところで待ちかまえていたかの様に、薫が声をかけてきた。
「2週間ぶりかしら? 風邪って聞いてるけど、結構長引いたわね」
 そう、俺が学校に登校するのは、2週間ぶりということになる。
 と、いうのもアインスからの記憶を受け継いだ後の診断に時間がかかったためだ。
 脳の容量をフルに使った影響がどうのという話になったが、結局は「よく分からない」という結論になった。
 もっとも健康面では問題ないらしく、それさえ確認出来れば俺としては後は関係ない。
「色々とあってな」
「ふうん」
 いうと、初めて会ったときと同じように、俺の顔を見回した。
「なんか、香りが変わったわね。」
「おお〜っ!! 薫ちゃんの香りチェ〜ック!」
 なにやら興奮したように晴香が盛り上がっている。
「気のせいだろ? 何もしてないぜ、俺は」
「そうじゃなくて……剣咲君の香りに間違いはないんだけど……。そう、香りが増えたような気がするのよ」
 相変わらず、コイツは鋭いな。
 とはいえ、いちいち言う必要のないことではある。ここは適当に話を逸らして……。
「よぉ」
 話を逸らすのに最適な人材を見つけた俺は、早速声をかけた。
「おはよう……ってアンタか、急に話しかけて驚かさないでよね」
「お前が勝手に驚いてるだけだろ。それより……」
「あっ! 神坂さん、おはようございますっ」
 相変わらず、萎縮している晴香だが。
「いいのかよ、こいつらの前で猫かぶって無くて」
 ちなみに、香りのヤツは、興味しんしんという感じで、菜緒を見ている。いや、嗅いでいるのかもしれないが。
「ああ、もう無理にはやらないことにしたから。さすがに、急に全部もとにもどすってワケにはいけないけど」
「そうかよ」
「ってことで、もうアンタの脅しには屈しないからね。あしからず」
 言って、晴れ晴れとした表情で、立ち去っていった。
「彼女、何があったのかしらね」
「知るか。何にせよこれであいつの栄華も終わったな」
「そうかしら? 彼女、近寄りがたいモノがあったのにそれが無くなったから、今以上に人気が出ると思うわよ」
「オカマのカンか?」
「人間観察から来る推論よ」
「でも、透はなんだか、ガッカリさん?」
「ん?」
 晴香が急に心配そうに訊いてきたので、変な声で聞き返してしまった。
「別に俺はあんな女がどうしようと気にはならないぞ」
 確かにスタイルはいいし、からかって遊ぶと面白いのは事実だが。
「きっと、おもちゃが無くなってイジけてるだけよ」
「そっか、それはガッカリさんだね」
「だから、当人を除いて話を進めるなよ」

★      ☆      ★


 放課後になると、やはり俺と晴香は一緒に帰ることになる。
「……またかよ」
 靴を履き替えようとしたとき、古風すぎる手段が俺を襲った。
「なになに〜? あれ? お手紙さん?」
「だな」
 前にも何度かこんなことがあった。もちろん、こんな物は気にしないので、まとめてゴミ箱へ。
「透っ! 捨てちゃダメダメだよぅ!」
 余計なことに、晴香が俺の腕を引っ張った。
「んだよ」
「それ、ラブレターでしょ?」
「だろうな」
 3バカから、カミソリ入りの手紙でも来ている可能性もあるが、それは置いておく。
「その人、イッショウケンメイ書いたんだよ。だから、すぐに捨てちゃダメだよ」
「くれって頼んだわけじゃねえよ」
「それでも、捨てちゃその人がカワイソウだよ」
 ぐっと身を前に乗り出すポーズで言って来る。
「で、どうしろっていうんだよ。俺はこいつらと付き合う気なんてねえぞ」
「他の子と付き合っちゃダメダメだよっ」
「お前、ダメばかりじゃないか」

★      ☆      ★


「ってことが、昨日あったんだが」
「それは、晴香ちゃんにとっては難しい問題ね」
 翌日、俺たちより早く教室に来ていた薫に、その話をしてみた。
「晴香ちゃんからしてみれば、剣咲君とは離れたくないし、だからといってないがしろにしたら出した人が悲しむと思うし……で、結局ラブレターはどうしたの?」
「捨てた」
「ま、そうなるわね。でも、きっとこれからもっと増えるわよ、そういうの」
「なんでだよ」
 したり顔で言った薫に聞き返した。
「剣咲君の雰囲気がね……、怖い雰囲気があるのは変わらないんだけど、優しさが結構表に出てくるようになってきたから。もっと、モテモテよ。良かったわね」
「良くねえ」
「む〜」
 晴香が、よく分からないうなり声をあげた。
「ま、でも晴香ちゃんとそれだけいっしょにいれば、それも収まるんじゃない?」
「なに?」
「ふたりの距離。なんか、更に近づいたって気がする」
「気がするだけだろ?」
「でもでも、私はそう言ってくれるとウレシイ」
「俺はうれしくねえ」
「どうして?」
 本当に分かってないのか、晴香が聞き返してきた。
「冷やかされるのは、嫌いなんでな」
「透と晴香はごいっしょさん〜♪ 透はN極、晴香はS極、永久磁石だ、ごいっしょだ〜♪」
 歌ってるし。

★      ☆      ★


「あ、あの剣崎さん……」
「ん?」
 退屈な授業が終わり帰ろうとしたところで、そんな声をかけられた。
「これ、調理実習で作ったんですけど。良かったらもらってくれませんか?」
 言って包みを差し出してきた。
 香りからすると、クッキーか何かのようだ。
「ああ、別に構わないけど」
「よかった! ありがとうございます!」
 ペコリと頭をさげて、包みを置くと、何故かダッシュして走り去っていった。
「なんだかな」
 まあ、気にするほどでもない。どうせ、晴香かシャチョーが食べるだけだ。
「透、帰ろっ!」
 一日中、ハイテンションなままの晴香が、やってきた。
「ああ」
 特に中身の入っていない鞄を、もって立ち上がる。
「ね、今日は寄りたい――」
 と、晴香の言葉が途中で途切れた。見てみると、妙に顔が青ざめている。そして、この表情は怯え……か?
 まさか、コイツ何かを読んだのか?
「ちっ……!」
 見渡してみると、心を読めない俺でもそれが何なのか分かった。
 クラス女子の視線が晴香の方を見ていた。
 ……嫉妬の目で。
「晴香、外に出るぞ!」
「う、うん……」

★      ☆      ★


 幸い、教室を出るとすぐに晴香は落ち着きを取り戻した。
 だが、俺は他人の心を見てあれほど怯えた晴香は初めて見た。
 今まででも、他人の心をみて敵対心や嫉妬心は何度も見ていただろう。その晴香が、あれほど怯えたのだ。
「それだけ、恋愛ごとに関する嫉妬心は強いってことか」
 俺からすれば、厄介なことこの上ない。
 だが、晴香は厄介なだけで済んではない。
 俺は、最初に晴香のオフクロが持ってきた例えを思い出していた。
 ケーキがあったとして、それを晴香ともう一人で分けようとしたときどうするのか?
 普通は簡単だ、半分ずつに分ければいい。だが、晴香の場合はそうはいかない。半分ずつにしただけでは、相手の「晴香さえいなければ、全部食べられたのに」という心を読んでしまう。
 そんな心を読みたくなければ、全部を相手にあげるしかない。それも、相手に猜疑心をおこさせない形でだ。
 あいつは、ずっとそうして生きてきたはずなのだ。
 だからこそ、晴香のオフクロは、晴香にそういう思いをさせないために、わざと距離を置いたのだ。
 そこへ、俺という要素が出来てしまった。
 良くも悪くも、俺と晴香は互いに依存しきってしまっている。
 ここで、晴香は譲れないモノが出来てしまったことになる。ましてや、俺は半分になるものでもない。
 結果として、晴香は俺と一緒にいる限りは、嫉妬心に常にさらされることになる。
 まあ、俺の顔でも焼けばそんな嫉妬心は無くなるんだろうが、そんな事をすれば晴香が俺からどんな感情を読みとるか分かったものじゃない。
 こういうとき、嘘が付けないってのは不便だよな。
 と、ベッドに横になって考えを巡らせていると、コンコンとノックされた音が響いた。
「入れよ」
「うん、ゴメンね……」
 ネコパジャマに着替えた、晴香がゆっくりと入ってきた。
「今日はゴメンね」
 もう一度、謝ってから布団の中に入ってきた。
「気にするな。前にもいっただろ、俺とお前のオフクロにだけは、お前は迷惑かけてもいいんだよ」
「だけど、私胸ないし、あの人大きかったし。ひょっとしたら……」
「お前な、それ以上下らない事言うと、殴るぞ」
「だって、透あのとき……」
「……まて、あのときって何だ?」
 急に振り返った俺に、びっくりしたように晴香が答える。
「神坂さんと会ったとき」

 ――でも、透はなんだか、ガッカリさん?
 ――別に俺はあんな女がどうしようと気にはならないぞ
 ――(確かにスタイルはいいし、からかって遊ぶと面白いのは事実だが)

「そんな事思ってねえよ。くだらねえ事考えてないで、寝てろ」
 無理矢理、思考を止めてそう言った。
「うん、ゴメンね、透……」
 その日、晴香は寝言でまで、俺に謝り続けていた。

★      ☆      ★


 翌日。
 男女別の体育の授業で、晴香と離れたところで俺は止めていた思考を再開させた。
 事態は、思っていたよりもヤバい方向へ向かっているらしい。
 最初は、周囲の嫉妬心だけの問題かと思っていたが、そうではないらしい。
 そう、当然だが晴香は俺の心も読んでいる。あのときも、菜緒に対してほとんど無意識に思ったことを晴香は読みとり、重く受け止めすぎてしまっていた。
 近くにいすぎることで、より俺の心を読んでしまうようになってしまったに違いない。
 そして、周囲には俺と晴香の間に何とかして入ろうと画策する奴らがいて、そいつらには晴香にない物を持っていたりする。
 そうなると、俺に依存している晴香が追い込まれない方がおかしい。
 譲れない、だが自分の力ではどうにもならない。そう追いつめられた晴香が出た行動が、昨晩の『謝る』という行動だったのだ。
 しかも、その問題が俺が晴香から揺れるはずのない問題なのだから、皮肉なモノだ。ありもしない問題で悩み続けているワケなのだから。
「ん?」
 おかしい。
 今の、俺が立てた問題には致命的な欠落がある。
 晴香は俺の心を読める。だから、俺が何気なく考えてしまった晴香以外のヤツのことも伝わってしまう。
 だが、俺が好きなのは間違いなく晴香なのだ。これは、揺らぎようがない。なにしろ、晴香が俺に依存しているのと同じくらいに、俺も晴香に依存しているのだ。
 なら、どうして晴香はそれを読みとらないんだ? それを読みさえすれば、今、こんなにも晴香が苦しむ必要はないはずだ。

★      ☆      ★


「少年。そりゃあ、無理ってもんよ」
 その質問をぶつけた、晴香のオフクロは苦笑いを浮かべながら答えた。
「晴香だって、無制限に心を読めるワケじゃないのよ。一番読みやすいのが、その時頭の中で考えていること。いくら少年だって、24時間、晴香の事ばかり考えているワケじゃないでしょ」
「まあ、そうだが」
「それに、晴香はプラスの感情より、マイナスの感情の方に敏感になるし……しょうがないんじゃない?」
「相変わらず、突き放した言い方だな。なんか、解決法を考えるとかそういうのは、ないのかよ」
 あまりにあっけらかんとした様子に、怒気を含ませていった。
「そんなモノがあるなら、アタシだって晴香とここまで距離を置いてないわよぉ。少年には分からないだろうけど、結構辛いのよ。あの子が困っているときに、何も出来ないってのは」
 いつもと全く変わらない口調。だが、その裏にかすかに悔しさが込められたような気がした。
「そうかよ……」
「あはははは。大丈夫よ、そんな心配そうな顔をしなくても。晴香はそんなにヤワじゃないわよ」
「アンタは軽く考えすぎだぜ」
「そんなこと無いわよ。実際、晴香は他人の心を読んで怖がることなんて、滅多に無いしたまにあっても、それを長くは引きずらなくなってる。今までに何人の心を読んでしまったと思ってるのよ」
「……」
「だけどね、少年の心だけは怖いのよ」
「……」
「今の晴香にとって、少年は一番安心出来る存在であると同時に、一番の恐怖でもあるわけ。だからさ……安心させてやってちょうだいよ」
「安心させるって、どうやって?」
「その辺は、少年で考えてちょうだうな。普通とかわらないわよ。あはははは」
「ああ、そうさえてもらう」
 吹き出すようにして、笑い出した晴香のオフクロに背を向けて歩き出した。
 俺は晴香を特別に考えすぎていた。
 晴香は普通の女だっていうのに。んなこと、当たり前のように分かっていたはずなのに。
 こんなんじゃ、晴香のオフクロに笑われても仕方ねえかもしれねえな。
 すっかりと暗くなってしまった道を帰りながら、俺は晴香になんと声をかけるべきか考えていた。
 いや、考えるまでも無いことだ。
 かける声など決まっていた。

 ――俺から絶対に離れるなよ。





という感じで、需要なさそうなんですが、エトランジュのSSを書いてみました。
まあ、とりあえず書いてみました的なモノですが、透と晴香のコンビは書いていて結構楽しいですね。
しかし、個人的にエトランジュの最大の萌えキャラは、晴香や菜緒を抜いて、翔子かもしれない。無口拒絶系に弱い私ですが、ああいうタイプにも結構弱い……。
うーん、期待があったら、連載物とかで、透&晴香の冒険物とかも書いてみたいなあ…

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