水夏〜SUIKA〜 第2章
夏の記憶(おもいで)その2

※ このSSは、Circus制作水夏〜SUIKA〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてCircusが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




「ふんふんふん〜。セッティング〜」
 さやかがいつも通りの様子で、カメラを三脚にセットしていた。ちなみに言うまでも無いと思うが、その重い三脚をこんな草原まで持ってきたのは、この私だ。
「みっちゃ〜ん、バッグの中からフィルター取って〜」
「どうでもいいけど、私はアシスタントかい…」
 と、ぶつぶつ言いながらも、やってしまうところが駄目なんだろうとおもう。でも、なんていうか、自然に体が動いてしまっている。そんな自分の行動に呆れつつ、フィルターの入ったポーチのようなものをさやかに渡した。
「ありがとう〜。あとで、飴をあげるからねっ」
「私は、回覧版をまわしに来た近所の子供かい!」
「う〜ん、ちょっと陽射しが強いからUVをカットしようと思うんだよね」
 聞いちゃいない。
 さやかの手が、いわゆる使い物にならなくなって、それからはさやかはこうして、写真を撮っている。それに、短い詩をつけて作品に仕上げる。勿論、こんな田舎ではあるものの「白河律」の娘だというだけで、注意を惹く事は多いようだ。そうしてしまえば、あとは「さやかワールド」に惹き込めば良い……、という事らしい(さやか談)。
「それにしても、ヘンに心配してた私がバカみたい」
「ん?」
 当人はまったく気にしないでフィルターをレンズにはめ様として……見事に斜めにねじ込んでしまっていた。
「更に言うと、この前まで本気で2号につこうかと思っていた自分もバカみたい」
「何、さっきからブツブツ言ってるの?」
 今日は機嫌が悪そうだ。蒼司先輩がいないからかもしれない。
「いい、聞こえなかったんなら、聞かなかったことにしておいて」
「一文字さんがどうとか」
「何の話よ……」
 実は2号どころか、妙に気の合ってしまった先輩の妹と結託して(うわ、言い方悪いよ、これ)1号を狙おうともしていたのだけど……、二人きりでいるときの先輩とさやかを見てしまったら、もう駄目だった。
 白河さやかという女性との最初の印象は最悪だった。何しろ『常磐の魔女』に折角のファーストキスを台無しにされてしまったのだから。
 それでも、2人の事を知ってしまった今は、……まあ、私の入り込み余地のあまりの狭さに断念してしまったわけだ。横恋慕というのもちょっと趣味じゃなかったのが残念な限り。
 さようなら私の恋。
 というわけで、「ちょっと仲の良い知人」という座に着いてしまっていた。
 カシャッ…。という音がしたかと思うと、さやかがまるで銅像の様に身動きをしないでいた。
「動かないでね…」
 と、最初の音がしてから、10秒ほどで、シャッという音がしてどうやらシャッターが降りた様だった。さやかの良くやる長時間露光だった。もっとも、それでも10秒は短い方。時には、長く開きすぎて、訳のわからない写真が出来た事があった。
「あはは……。風が強いから、ちょ〜っと、ブレちゃったかな?」
 私に向って訊いてくるが、そんな事言われても困る。
「それとも、もっとブラしちゃおうか?」
 そう言うと、カメラを三脚から外して手持ちに変えた。当人、名案なのかもしれないが、私の目には新しいイタズラを思いついた悪ガキにしか見えない。
「う、このレンズで手持ちはちょっときつかったかも」
 それはそうだろう。まだ、手の傷は癒えていないのだ。
「はぁ……」
 仕方なく、カメラを支えようかと思ったとき、後ろの方から声がかかった。
「写真撮ってるの? うわ、すごいカメラ」
 振り返った先には、何度か見たことのある顔とまったく見たことのない顔が一つずつ。
「眠り姫の小夜ちゃんね」
「美絵さん!」
 とっとっと、という感じで舗装された道からこっちへ向ってくるのだが……、やはり足元がおぼつかない。転ばなければ良いけど……。
 どさっ……。
 なんて予想通りの展開。というか、さやか、カメラをそっちに構えるのは止めなさいって。
「ああ、気にしないで。こいつ、何もない地面に突っ伏すのが趣味だから」
「そうなんだ〜」
「そんな訳があるかっ!」
 小夜に着いてきた男の人に、頷いてみせたさやかにもう反論した。
「はい、チ〜ズ」
「え?」
 戸惑ったときにはもう遅い。あっというまにシャッターが切られ。さやかの「戸惑った顔コレクション」に輝かしい一枚が加えられてしまった。
「さ、写真の続き撮らないと」
 威勢をつけて立ち上がるさやかに、小夜はため息を一つついた。
「ヘンな人が多いわね…」
「小夜の顔ほどはヘンじゃない」
「どう言う意味よっ、それっ!」
 そう言うと、とっくに逃げ出した男を追いかけていく小夜。二人の姿はあっというまに見えなくなってしまった。なんというか、物凄い局地的な夕立にでも遭ったような気分だった。
「さやかも、先輩もそうだけど、あの二人も何考えてるかわからないな」
「………」
 何気なくそういうと、ファインダーを覗いていたさやかが、ふっと視線をこっちへとよこした。
「人の心なんて、分からないほうがいいよ」
 いつも通りのつかみ所の無い口調。だけど、その言葉には不思議と重みがあった。
「そんなことないでしょ? 人の心が読めれば、恥ずかしい失敗とかしないで済むし、相手の事も気遣えるし……」
「ううん、そんな事ないよ」
 そういった時。風がふっと吹いて、さやかの長い髪をなびかせた。それは、同性の私から見ても綺麗だと思えた。
「私の目、ね。そんな事出来るんだ」
「え?」
 何を言ったのか、良く分からなくてそんな声を出してしまった。
「分かっちゃうんだよ、人の心が……」
「でも、それって良いことじゃないの? そんな悲しい顔をしていう必要なんて……」
「ううん、ビックリ箱の中身は知らないからこそビックリ箱なんだよ。それを、知ってしまったら面白くない……。人の心も同じだよ」
「………」
 そういうものなのだろうか? 良く分からない。
「だから、私はこの力が憎かったんだ……。だから、極力見ない様にしてきた。それでも見えちゃうんだけどね………、特に……」
 その後の言葉は、良く聞き取る事は出来なかった。ひょっとしたら、口を開いただけで言葉は発していなかったのかもしれない。
「例えばね、美絵ちゃん……」
「え?」
 急にいつも通り………、いやそれ以上の明るい声でさやかが言って来た。
「美絵ちゃんが、蒼司クンに持ってるのって、恋愛感情じゃなくて、憧れだよね?」
「え……」
 不意に背中に冷や水をかけられたような気がした。
 私が、恋愛じゃなくてあこがれ……?
「まあ、似たような感情だから間違うのも無理ないけどね」
 それは分かっていた。でも、今更言い出せないじゃない、恥ずかしくてそんな事。でも、それがさやかには筒抜けになってしまってるという事なのあろうか?
 子供のころのおねしょとか、昨晩みた体重計の針とか、訳の分からない事が一杯頭に浮かんできてしまった。混乱しているのだ。
「ね、嫌でしょ? 心を覗かれるのって。そして、その次に浮かべる感情もきまってる」
「………」
 怖い。
 逃げたい。
 そんな感情だろう。それは、今の私が持っているのと同じものだからだ。どんな人だって、自分の心の中は聖域だ。それを覗ける人なんて気味が悪い以外の何者でもない。
「好きな人に食事を作ってあげても、その人の口から『美味しい』って、言ってもらえるのが嬉しいのに。………全部、分かっちゃうから」
 なるほど。
 少しだけ、分かったような気がした。それこそが「常盤の魔女」の正体だったわけだ。
「じゃ、先輩は?」
「あ、蒼司クン?」
 そう言うと、何がおかしいのかケラケラと笑い始めた。
「彼の心、読めないから」
「読めない?」
 鸚鵡返しに訊き返した。
「うん。私が心を読めなかった三人目っ」
「他の二人は?」
「お母さんと、お父さん」
 ふうん。
 私は、一つ頷いた。この事を兄に言えば、すごくもっともらしく恋愛に陥った過程を推察してくれるに、違いなかった。
 だけど、そんな事はどうでも言い。二人を結んでいるのはそんなちっぽけなものだけではないはずだし、結果として、私が入りこむ余地がないのを完膚なきまでに知ってしまっただけだった。
「で、どうするの? 今日の撮影は?」
「え?」
「え? じゃなくて、雲が出てきてるけど」
「え〜と……」
 なにやらしばらく悩んでいた様だったが、やがて思いなおしたようにカメラを構えなおした。私は、無言でそのカメラを下から支えてやる。
 カシャ………シャッ!
 今度は5秒くらいシャッターが開いていた。
「みっちゃん? どうして?」
 まだ、首を傾げているさやかがゆっくりと訊いて来た。
「私の感情、読めるんでしょ?」
 もう、恐怖もなにも感じていなかった。さすがに、体重がばれてしまうのは嫌だけど、いいプレッシャーにはなるかもしれない。
「あはは……。なんだか……」
 何かを堪える様に、一瞬だけ空を見上げたさやかがゆっくりと顔を下ろした。
「みっちゃん。私、この作品は気合を入れるから」
 そう言って、腕まくりをするけど……、あまり写真を撮るのに関係はないと思う。
「それで? 作品のタイトルくらいは決まってるの?」
「『ひまわり畑』」
「ひまわり? どこにもないけど、そんなの」
「いいんだって……」
「ま、いいけど……」
 そこで私達は笑った。
 本当に意味はなく、だけど思いきり笑いあった。
水夏のSS第2段として、第2章の後日談です。
うーん、さやか先輩は、ちょっと難しいですね、喋り方とか(^^;
でも、人気はあるし、これはみっちゃんと絡ませるしかないだろ
って感じです。
あと、2つ〜

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