水夏〜SUIKA〜 第3章
夏の記憶(おもいで)その3

※ このSSは、Circus制作水夏〜SUIKA〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてCircusが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




「起っきろおおおおぉ!!」
「ぬあっ!」
 どしん、というまるでベッドから落とされたかのような音が辺りに響いた。いや、まるでも何も実際にベッドから落とされたらしいが。
「おはようっ、お兄ちゃん」
 目の前には、何事も無かったかのように微笑む茜の姿があった。
「……で、今日は何をやったんだ?」
 思い切り不機嫌そうな声で訊いてみた。
「普通に起こしただけだよ?」
 普通じゃないだろう、これは。こんな様子を外国人に見られた日には、日本人はみんなこんな起こされ方をするという「間違った日本」が広がってしまうことだろう。
「ほらほら、あんまりのんびりしてると、また透子お姉ちゃんを待たせるよ」
「透子?」
 考えること十数秒。そこで、僕は一つの答えを見つけ出した。
「ああ、旅行にいく日か……」
「そうだよ、お兄ちゃんはまったくボケボケなんだから」
 何が面白いのか、けらけらとあまり趣味のよろしくない笑い声をあげながら、茜は食堂のほうへと向かっていった。
「それにしても……」
 すっかり、今までの茜だった。まあ、変に意識されすぎて避けつづけられたり、もう一回自殺されてしまうよりかは遥かにマシだ。それは、間違い無い。
 それにしても、兄弟同士の行為といい、同性同士の関係といい、どっちに転んでも最悪という状態から、こんなに早く復帰し、割りきってしまえるものなのだろうか?
 いや、それとも茜は透子を諦めてなどいないのではないだろうか?
 確かに茜は「透子お姉ちゃんは、お兄ちゃんに任せるよ」と言っていた。事実、それ以来、以前の三人の関係に戻ったかのように見える。
 だが、それが酷く薄いものに見えてしまうのだ。
 これが、茜の面従腹背では無いと誰が言いきれるだろうか?

★      ☆      ★


「それじゃ、行って来るからな」
「はいはい、お土産よろしく〜」
「わかったよ」
 しかし、茜の趣味は良く分からない。お土産といっても何を買えば良いもんか。透子だったら分かるのかもしれないし、透子が選んだものなら、茜も喜ぶのだろうが……、今度は透子が不機嫌になる。
 三角関係というのは決して希なケースではないと思うが、ここまでへんちくりんな三角関係も無いだろう……。
「いや、下手すると四角関係か?」
 頭が痛くなって来た、これ以上考えるのは止めておこう。
 そんな、嫌な頭痛を抱えながら駅前に向うと、そこには予想通り既に透子の姿があった。結局、透子が茜の振りをしていたという希なケースを除いて透子が俺より遅い事は無かった。一度、意地でも早く行ってやろうと一時間早く着た事があったのだが、なんとそれでも透子の方が早かった。
 いや、茜から透子に連絡があったというだけらしいのだが。
「おはよう、良和」
「ああ、おはよう」
 言って早速腕を組んできた。既に夏が過ぎて、冬の気配さえ漂いそうなこの時期なら、それはとても心地よく感じられた。
「早く行きましょう?」
「ああ、そうだな」
 大き目の切符を駅員に見せ、既にホームに入っていた電車へと載り込んだ。やはりというか、車内には人が居なくて、見事に僕と透子の貸し切りだった。
「でも、今年の紅葉ってどうなのかしら?」
「さぁ……」
 知っているわけが無い。この旅行だって、茜から「そろそろ、何かしてあげないとブスっと刺されるよ」という脅しを受けて咄嗟に思いついたものだ。そんな計画性があるわけが無い。どっちに刺されるのかは判断に困るところだが。
「………」
 そんな何かを見ぬいたのか、ふっと表情を和ませると、僕の肩に頭を預けてきた。列車の中ではお約束とも言えるスタイルだった。
「………」
 会話は生まれない。いや、話の種くらい、勿論あるのだが、透子用に……となると難しい。下手に友人の話でもしようものなら、男女問わずに変な勘繰りを持たれるだけだ。挙句の果てにまた事件が置きかねない。藪は突つかないに限るのだ。
 ただ、それを窮屈に感じるかといえばそうでもなかったりする。いや、これを窮屈と感じるなら、一週間以内に胃に穴があいて病院送りだろう。ポリープだって出来るかもしれない。
 第一、透子はその異常なまでの独占欲を除けば、僕には勿体無いほど良く出来ている。他に目移りなどするはずも無い。だから、別に束縛されることに不満など感じるはずも無いのだ。
 美人に束縛される方が、ブスにたらい回しにされるより一億倍もマシではないか。
 いや、マシとかそう言う問題ではなかった。
 僕達はこれで上手く言っているのだ。
 互いに独占し束縛されていたい。
 別に、そんなカップルがいても良いではないか? それに比べたら、その日ごとに相手を変えている奴等の方がよっぽどどうかしている。
 ガタン。
 そんな音がして、ゆっくりと列車が動き出した。
「透子……」
 僕のすぐ横にいる彼女にそっと声をかけた。
「なに、良和……」
 すこし眠そうだった。その原因は膝の上に載せられている包みの中身であろう事は十二分に予想出来た。
「いや、二人きりだと思って」
 列車の中には結局、僕と透子の二人だけしかいなかった。
「ええ、ほんと……」
 ふたりだけ。
 それは、僕達にとって落ち着ける環境だった。十年後、二十年後もそうでありつづけるのだろうか?
 列車はゆっくりと動きつづけていた。
はい、第3章です。
うーん、まあ、こんな話になってしまいますよね。それでも、出来るだけ暗くならない様にしたつもりなんですが……。
しっかし、この三章は人間関係歪むわ、いろんな交錯入り混じるわ、少し前のTVドラマのような展開でしたね。
しかし、この手の話ってゲームには少ないから貴重かも………、まあ、人気がなければどうしようもないのかもしれないけど。

で、次は四章を書きます。一応、この四章のSSで水夏のSSは終わりという感じです。いや、名無しが死神になったときの下りとか、その後の出来事とか、そこら辺書くのも面白そうなんですけどね。
メデス、どうしよう………。

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