水夏〜SUIKA〜 第4章
夏の記憶(おもいで)その4

※ このSSは、Circus制作水夏〜SUIKA〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてCircusが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)。




「よう、おじょ……水夏」
 やっと、校門から出て来た水夏に、そう声をかけた。
「むぅ。また、ボクの名前、間違えた〜」
 今回も、名前を間違えたことが気に入らない様で、ぷぅ、と顔を膨らませたような感じだった。
「お兄ちゃん、いい加減、覚えてあげようよ」
 やや遅れて出て来たちとせが、水夏に加勢する。
「んまあ、分かってるけど……、お嬢って呼んでた時期が長いからなあ」
「あなたといた期間なら、もう水夏の方が長いもん」
「……本当か?」
 言われて頭の中で振り替えてみる……までもなく、水夏の方が長かった。
「まあ、あの時の出来事が衝撃的だったからな」
 言い訳する様に……、というか言い訳そのものだが、とにかく言ってみるが、水夏の機嫌は治らない。
「いや、水夏だの、お嬢だの、山田花子だの、綾小路紗耶香だの、亜季だの、千夏だの、一杯名前があったら、覚えられないって」
「………」
「………」
 水夏はおろか、ちとせまで無言で睨み出した。言い訳は思いっきり逆効果だった様だ。
「……分かった。降参。反省して次は間違えない様にするから勘弁してくれ」
 結局いつもこうなってしまうのだ。
「ボクは焼きもろこしが良いな」
 もう秋だぞ。心の中で、突込みをいれた。
「私も!」
 元気一杯に、ちとせが続いていった。最近、この二人は性格が非常に似ているのでは、と思える様になって来た。
「ちとせだけは、お兄ちゃんの味方だと思っていたのに……」
 二人に背中を向けて小刻みに揺らしてみる。
「え? え? お兄ちゃん!?」
 案の定、ちとせは大慌てだった。
「チーちゃん、どうせ演技だよ」
 水夏には速攻でバレていた。
「演技……?」
 あ、これ以上二人を怒らせると流石にまずいかも。前は、それでとんでもない目にあって……。
「とっ、ところで二人とも勉強の方はどうなんだ?」
 あからさまかもしれないが、取りあえず話を逸らしてみる。
「う〜。勉強の事は訊かないでよ〜」
 とたんに、みずやりを忘れた植物の様に元気が無くなる水夏。
「私は大丈夫だよ。お勉強楽しいし」
 逆に、ちとせは元気だ。
 まあ、ちとせはおれと違って頭は良かったし、学校にいけない間も勉強はちゃんとしていた様だ。学力に問題は無い。
「学校は楽しいけど、勉強と試験はボクの敵だよ〜」
 そうとう酷い目に遭っているんだろうか? ちとせに目線を合わせるとさり気なく逸らされてしまった。
「このままじゃ、来年はちーちゃんが先輩になっちゃうよ〜」
 かなり追い詰められているらしい。
「まあ、頑張れ」
 と、水夏に言った所で多量の視線を感じた。その先は……学校の校舎から何十人もの生徒(おもに女子)が、興味ありげにこっちの様子をうかがっていた。
「あ、クラスのみんなだ」
「ほんとだ」
 それに気付いた二人が手を振るが、こっちはそれどころではなかった。「あれがちとせのお兄ちゃん?」とか「水夏の彼氏だってよ」とか、いろんな声が聞こえて来たからだ。挙句の果てには「三角関係?」とかいうものまで、聞こえて来た。
「帰るぞ」
「あ、待ってよ〜」
「お兄ちゃん、ちょっと待って〜」
 先に歩き出したおれを、二人が笑いながら着いてきた。

★      ☆      ★


「それでね、今日は美術の授業だったんだよ」
「うん、うん」
 家までの帰り道をとぼとぼと歩きながら、二人が話しかけて来た。
「というか、二人ともクラスは別だろう?」
「クラスは違うけど、芸術科目は、クラス単位じゃなくて同じ科目を選択した人達でやるんだよ」
「それまた、過疎化が進んでるな」
 今更言っても、仕方ない事だが。
「それでね、美術室に絵が飾ってあったの」
「絵? 誰の?」
「ええと、確か……白河さやかと上代 蒼司……だったかな?」
 自信なさげにちとせが言った。
「卒業生か何かか?」
「そうなんじゃないかな?」
 どっちの名前も聞き覚えがあるような、無いような微妙な線で自分の記憶に引っかかっている。どこかで名前くらいは聞いた事があるのかもしれない。
「でねでね、それが凄くいい絵だったんよ」
「うんうん」
「なんていうかね、見てて嬉しい気分になれるんだ」
「ん、そうか」
 感受性の高いちとせや、何にでも興味を示す水夏と違って、残念ながら自分には絵に興味などない。
「それでね……」

★      ☆      ★


「で、お前は何やってるんだ?」
 微動だにしないおれに、華子が訊いて来た。
「見て分からないか?」
「……我慢大会?」
 ある意味当たっているかもしれない。一人の参加で「大会」という物が成り立つのならば。
「あ〜。また動いた」
「お兄ちゃん、もうちょっとじっとしてくれると嬉しいんだけど」
 これだ。
「はいはい」
 もう一度、椅子に深く腰掛けると銅像の様に体を固めた。どうやら、美術の時間だけでは描き足りなくて、家でも描きたいそうなのだが……、絶対に名前を間違えた事の復讐が混じっていると思う。
「あははっ、いいオモチャだなこれは」
「うるさい、華子はなこはどっか行ってしまえ」
「あたしの名前は華子かこだっ」
 一括してから、どんどんと足音を立てて奥の方へと向った様だ。しかし、顔が動かせないので、やはり水夏やちとせを見る事になる。
 ちとせの方は、家の中で絵を描いている事も多かったので、慣れたような手つきで絵筆を動かしていった。それに対して、水夏の方はというと……。
「う〜」
 とか。
「むぅ」
 とか、謎の声を出してはぱたぱたと動いて非常に落ち着きが無い。時々、ちとせの真似をして、格好だけは一人前のところから入るものの……、明らかにダメっぽい。
「なあ………」
「もう、ちょっと黙ってじっとしてて、今、いい所なんだから」
「トイレ行きたいんだが」
「………だめ」
 これはもう、怒っているというより、単に集中しすぎているだけだろう。良く、水夏がTVアニメをみるときにかかるあれだ。しかし……。
「ここで、漏らすぞ」
「わぁ、お兄ちゃんダメ〜っ」
 慌ててちとせが、止めに入った。

★      ☆      ★


「はい、お兄ちゃん」
 少しだけ恥ずかしそうにちとせが、描いたを見せた。
「……美化しすぎてないか?」
「え? そんなことないよ」
 そうはいうものの、絵の中に描かれている人物は、おれより数段格好良く描かれていた。「これはおれです」なんて言って見せても、十中八九、信じては貰えないだろう。
「まあ、何にしてもありがとうな」
 少なくとも、格好良く描いてもらえる分には悪い気はしない。
「で、水夏のほうは?」
「じゃじゃーん」
 水夏の絵が披露される………。
「………」
「………」
 その途端、おれはおろかちとせの動きまでも、ぴたりと止まった。
「反戦のポスター?」
「なんで、そう言う事言うんだよ〜」
 水夏がすこし凹んだ。
「ごめん、私にもそう見えた」
「ううっ……」
 更に凹んだ。
「あっ、でも、ここのラインなんかお兄ちゃんの顔にそっくり」
 すかさず、ちとせがフォローに入る。
「それ、アルキメデス……」
「………」
「………」
 フォローは失敗した。
「えーと……」
 ちとせは、必死に更なるフォローを考えているろうだが、汗が滲んできている。どうやら無理っぽい。
「その内、まともに絵が描けるようになるさ」
「どうせ、ボクの絵はまともじゃないもん」
 不貞腐れれて、そっぽを向いた水夏から、ひょいとその絵を取り上げた。
「アルキメデス……か」
 あとの人物確認は良く出来ないが、きっと、ちとせ、華子、水夏……。みんなで遊んでいる絵………なのだと思う。
「絵、返してよ〜」
 ぴょんぴょんと、飛びあがって、絵を取り返そうとするが、慎重さがあるぶんだけ、おれが腕を伸ばしてしまえば、取り替えされることは無い。
「いや、この絵は二枚とも、モデル代としておれが貰っておくから」
「え……?」
 水夏の動きがぴたっと止まった。
「魔除けにはなるだろうし」
「わー、そんな理由で持っていかないでよ〜」
 本当の理由は……、恥ずかしくて二人の前で言えるわけは無かった。それでも、ちとせには気付かれてしまったのか、くすくすと面白そうに笑っていた。
ということで、水夏のSSはこれで完結ですね。
しかし、お嬢のことを水夏って呼ぶのは……やっぱし違和感ありますね。
まあ、本編で一度もよんで無いからでしょうけど「お嬢」ってのが
しっくり来てたからかもしれません。
しかし、水夏は良いゲームでした。やぱし、こういう良作にあたると、
無性にSSを書きたくなっちゃいます。

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