日常
〜 第2話 〜

 

※ このSS(?)は、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)

 

 さて、ついに次の時間から恐怖のテストの時間である。
 沢口のヤツが今になって騒ぎ出したが、住井のヤツなんか落ち着いたものである。きっと涅槃の心境に違いない。もはやこいつに怖いモノはないな。
「沢口、騒ぐなって、みっともないぞ」
「そうだぞ。オレを見ろ。このあきらめの局地を」
 住井はそういって教科書をしまう。
 とりあえず今までは勉強する気くらいはあったらしい。教科書を曲がりなりにも持っていたということは。
「オレは住井たちとは違うんだ〜」
 沢口は未だに教科書をあさるように読んでいる。
 そんな読み方だと、頭の中にはいるのは全体の10%満たない。経験者は語るというヤツだ。
「沢口。ここは一つカンニングペーパーを作成してみてはどうだ?」
「そんなことできるかっ!」
 ・・・そうか? 結構いい提案だと思うんだが。
 まあ、しかし、沢口も、とうとう自分が沢口だと認めたようだ。人生あきらめが肝心と言うことだな。


 そしてテストが始まった。今回は学校行事の関係で日付が押してしまったため、異例の通常授業後、テストという形式をとることになった。まあ、初日である今日だけだが。
 さて、初戦は歴史だ。暗記した内容が耳からこぼれないうちに早めに済ませることにしよう。
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・わからん。
 ・・・カエサルがブルータスに斬られたのっていったいいつだ?
 半分くらいまではすんなりと来たのだが、ここでローマ史につまづいた。
 ・・・なぜにローマ?
 途方に暮れてオレは教室中をぐるっと見渡す。
 途中茜の席で目が止まる。
 ・・・うーむ、さすが優等生、すらすらと書いているな。あやかりたいものだ。
 遠視能力とかあればよかったのにな。
 もちろんテレパシーでも可だ。
 やや電波系の想像になってしまうが、きっとこんな事も可能に違いない。

(・・・茜、聞こえるか?)
 オレはテレパシーで里村に話しかける。
 それに対し、里村はすっと顔を上げた。
「・・・聞こえています」
(単刀直入に言うぞ。歴史の答案を教えてくれ)
「・・・嫌です」
 ・・・即答だ。
 だがしかし、オレは引き下がらない。
(そ、そこをなんとか・・・)
 なんか卑屈だな。オレ。
「嫌です」
 また即答。
 ・・・さっきより返事が早くないか?
 だがしかしっ、ひょっとすると赤点になってしまうかもしれないテストだ。ここで教えてもらえるのと教えてもらえないのでは、大きな違いだ。
(このとおり、頼むっ!)
「・・・見損ないましたよ。浩平」
 茜は少し悲しそうな顔をしてこっちを見た。
 瞳からは涙があふれそうだ。
「・・・浩平は、そんなことはしないと思っていました」
 ぐぁ・・・
 うう、すまねえ、茜、オレはおまえを裏ぎっちまったんだな・・・

 てなことになるに違いない。
 ・・・って、茜じゃ駄目じゃん。
 ならば・・・

(おーい、だよもん)
 オレのテレパシーに、長森がびくっと反応する。
「え? 浩平? どこだよ?」
 いったいどこから話しかけられているかわからずにきょろきょろしている。
 もちろん、この間オレはできるだけ平静を装っている。
(歴史の回答を教えてくれ)
「えー、嫌だよ。浩平がいつもまじめにやってないのが悪いんじゃない」
(いや、オレは限りある人生をより有意義に使うためにまじめに日々を過ごしているんだぞ)
「・・・今、有意義なの?」
 ・・・痛いところをつくな、こいつ。
(有意義だぞ。こう、長森をどうしたらこのすばらしい計画に協力させられるか考えているんだ。なかなかだ)
「じゃあ、ずっとそうしてていいんだよ」
 え? それはつまり・・・
 駄目じゃん。

 という・・・末路になるのか・・・ 
 あまり使えなさそうだな。テレパシー。

 −ずっといっしょにいてあげるよ−

 ・・・誰かの話し声が聞こえたような気がしたが・・・気のせいかな?
 やはり昨日寝ていないのが健康に響いているのだろうか?
 明日はきちんと眠ろう。1日くらい長森を困らせるためのネタを考えなくても長森は怒らないだろう。いや、それどころか感謝するに違いない。なんて張り合いのないヤツだ。
 オレは長森に呪いを送る。
 だよもんだよもんだよだよもん・・・
 ・・・なんだか効きそうにない呪いだな。
 しかも長森は気がついていないようだ。しかしどうもいつもと雰囲気が違うような気がするな。いつもだったら、オレのことを事細かに観察して、放課後になって文句をつけてくるのに、今はそんな雰囲気はない。
 テスト中だからか?
 とりあえず呪いを送ったことによって気は晴れたのでよしとする。

 ・・・さて、テレパシーが使えないことがわかったからには、ここはやはり遠視能力だな。
 沢口や住井の答案は役にたたなそうなので除外して、こう、長森の答案や、茜の答案を・・・
 ・・・茜と目があった。
 ぐぁ。
(・・・何か用ですか?)
 茜は非難がましい目つきでこちらを見ている。
 邪魔しないでください。
 とでも言うような感じだ。実際そうなのだろう。
 オレは茜を真剣なまなざしで見つめる。
(・・・答案が見たい)
(・・・なんですか?)
(・・・だから答案が見たいんだが・・・)
(用はないんですか?)
(いや、だからな・・・)
 茜はテストに戻ってしまった。
 とりあえず茜にオレのテレパシーは通じないみたいだ。
 ・・・通じる訳ないか。
 ・・・本当にそうか? オレはある実験をしてみることにした。
 根気よく、もう一度茜がこっちを向いてくれるまで見つめ続ける。
 じー・・・
 じー・・・・・・
 じー・・・・・・・・・
(・・・なんですか?)
 耐えきれなくなったか、さっきよりもいっそう非難がましい目でこちらを見る。
 とりあえず振り向かせることには成功したが、これだけですでに2分が経過している。限りあるテスト時間だ。効率よく使わなくてはならない。現在すでに20分以上経過しているしな。
(・・・今日の帰り、山陽堂のワッフルを食べにいかないか?)
 茜は少し考えるような素振りをした。
 ・・・ひょっとして伝わっているのか?
 いや、まさかな。そんなわけ・・・
(・・・いきましょう)
 コクンと頷く茜。
 ・・・どうやら甘いモノ関係の話のみ伝わるらしい。
 以心伝心というヤツだ。なんとなくうれしい。
(・・・蜂蜜かけ練乳入りがいいです)
(今日は日が悪い。やめておこう)
 オレも甘党を自覚しているが、あれだけは太刀打ちができない。
 通称アレ。自称甘党どもを葬り去るために生まれた山陽堂の不沈鑑。生半可な覚悟では一口食べた時点で敗北を喫すること請け合いの、人類の生み出したもっとも過酷なお菓子。
 それが通称アレ。
 溶けきらなかった砂糖でちょっとざらざらしているのもポイント高い。
 何の因果でテストで疲れた後にアレを食べなければならないのだろうか?
 ひょっとしたら疲れているので糖分補給という意味ではいいのかもしれないが、できることなら遠慮したい逸品だ。
(・・・悲しいです)
 茜が今にも泣き出しそうな表情でこっちを見ている。
 オレはこの表情に弱い。茜も知っている。
 ・・・確信犯か?
 まあしかし、本当に泣き出されてしまうと事なので、オレは不承不承うなづいた。

 さて、再びテストに戻る。
 ・・・戻るときに茜が小さくガッツポーズをしたような気がしたが・・・気のせいだろう。あまりにも似合わなすぎる。
 まあわからない問題だらけだが、適当にがんばるとするか。
 ・・・しかし悪趣味なシャープペンだな。
 テストができなかったのは、きっとこいつのせいだ。
 ということで、住井の答案でも覗くか。
 ・・・よく見えない。
 目をこらして、と、
 ・・・白紙か。
 流石としかいいようがないな。住井、オレが卒業してもがんばれよ。
 周りの女子生徒の答案を見てみよう。
 まず、右斜め前。名前は知らない。仮に斉藤としておこう。
 言っては悪いが、こいつは七瀬より馬鹿だ。
 ・・・参考資料は漢字テストの結果だけだが。
 ああ、そうか、七瀬の答案を見ればいいのか。
 こんな時のために七瀬の席の横の窓枠に小さな鏡を仕込んであったりするのは、住井にも秘密だったりする。長森は気づいているらしいが・・・
 おお、よく見えるではないか。
 偉い、偉いぞ七瀬。でもな、おまえ、オレよりできてねぇよ。
 とりあえずあきらめることにするか。


「ふぃー、終わった終わった」
 住井が横で大きく伸びをする。
 あらゆる意味で終わったようだ。住井、おまえのことは忘れ無いぞ。

 −わすれられるっていうことはかなしいことなんだよ−
 だからぼくはきづなをもとめたんだ。
 たくさんの。

 また何か聞こえたような気がする。
 やっぱり疲れているのか? オレ。
 まあいいか、とりあえず茜を誘って、山陽堂へいくとしよう。
 ・・・まてよ、どうせならみんな一緒の方がいいだろう。
「長森ー、これから暇かー?」
 オレはちょっと離れた席にいる長森に向かって呼びかける。
 長森は筆箱を鞄にしまいながらこっちを振り返った。
「・・・え?」
 なんというか、ひどく場違いな事を聞かれている。そんな表情をしていた。
「え? じゃないって、長森。これから暇かって聞いてるんだ」
「あれ? え? 浩平? どうして?」
 長森はひどくあわてている。どうかしたのだろうか?
「・・・煮え切らないやつだな」
「だって浩平、チャック〜」
 チャック?
 それは・・・ひょっとして、ひょっとするのか?
 ・・・ひょっとした。
 ぐぁ。
 あわててオレは制服のズボンのチャックというよりジッパーか、をなおす。
 むちゃくちゃ恥ずかしくないか。これ。
 それにしても何かごまかされたような気がするが。
 別にいいか。
「長森〜、オレは先輩呼びに行って来るから、七瀬のこと誘っておいてくれ」
「うん、わかったよ」
 オレは茜にちょっと待ってくれと言うと、教室を後にした。

 

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