日常
〜 第3話 〜

 

※ このSS(?)は、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)

 

 屋上へと続く薄暗い階段を駆け上がり、オレは「頭上注意」と書かれた扉を開け放つ。
 ・・・「頭上注意」?
 上から何か来るのだろうか?
 まあ前回は「折り曲げ厳禁」だったからな。こいゆうこともあるだろう。
 オレは屋上へと一歩踏み出す。
「浩平君、今日の夕日は何点かな?」
「まださすがに夕日には早いと思うぞ。今日は学校終わるの早かったからな」
 屋上には先輩がいた。肩まである髪が風になびいている。
「でも風には満点をあげてもいいかな?」
 優しい風が吹いている。
「そうかな? さっきは大変だったんだよ」
「なにが?」
 先輩は手でスカートを押さえている。
「・・・浩平君」
「なんだ? 先輩?」
「・・・わかってて聞いてるんでしょ。意地悪だよ〜」
「きっといたずら好きの風だったんだ」
「そうかな〜?」
 先輩が笑いながら首を傾げる。
 また風が吹いた。先輩の髪が風になびく。
 いい風だ。
 オレと先輩は、しばらく無言で風に吹かれる。
 ・・・・・・
 いけないいけない。
「っと、忘れるところだった。そういえば、先輩、今日暇か?」
「うん、大丈夫だよ」
 笑顔で答える先輩。
「長森や、茜・・・って言ってもわからないか、みんなで山葉堂に行こうって話になってるんだけど、行かないか?」
 オレの問いかけに、先輩の笑顔が曇った。
「・・・そこって学校から遠いのかな?」
 ・・・そうだった。
 先輩にとって学校から遠い場所に行くのは本当に暗闇に放り出されることと同じ事なんだ。
 不安になるのも仕方がない。
「・・・オレが一緒でも駄目か? 先輩」
「うーん・・・」
「無理にとは言わないけど・・・」
 なんか、卑怯だなと自分でも思ってしまう言いぐさだ。
 でも、どうしても来てほしかった。なぜかはわからないけど、ここでつれていかなければ、きっと永遠に後悔する。そんな気がした。
 わき上がってくる焦燥感。
 なんなんだ、これは?
   
 −もう、こんなつらいおもいはいやだったんだ−
 −だから、ぼくはえいえんをねがった−

 また、あの声。
 今度はしっかりと聞こえた。
 この声は・・・オレの声だった。子供のころのオレの・・・
 だけど、どうして・・・

「わかったよ」
 先輩の声で、一気に現実へと戻される。
 オレは、自分でも不思議に思うほど、きょとんとした顔をしていた筈だ。
「・・・どうしたの?」
 たずねる先輩に対し、オレはひとつ頭を振って、気を取り直し、答える。
「いいのか、先輩?」
「だって、せっかくのお誘いだよ。断ったら、化けて出られちゃうよ」
「きっと、枕元に立って、落ちのない落語を一晩中語り始めるんだ」
「・・・う〜ん、とりあえず嫌だって言っておくよ」
「それも、落ちが気になって、夜も眠れなくなるようなやつだ」
 先輩が、心の底から嫌そうな顔をしている。
 きっと、想像力豊かな先輩のことだから、頭の中でライブ映像が流れているのだろう。
 だけど、オレにはそれを笑って茶化す余裕なんてなかったんだ。


 その後オレは、澪に連絡を取ってくると行って、先輩のもとを後にした。実際は逃げ出したかったのかも知れない。
 自分の知らない間に、何かがおこっている。
 確実に、少しすつ。だが、急に。

 −いつまでもつづくとおもってた−
 −この、しあわせが−

 まただ。
 オレは思わずあたりを見回す。
 階段の踊り場−
 オレ以外には当然誰もいな・・・
 くいっ、くいっ。
 なにかに引っ張られている感覚。
「・・・澪?」
 制服の裾にぶらさがっているみたいだ。
 ・・・いつからだ?
「・・・のびるから、やめてくれ」
 頼まないと、ずっとぶらさがっている。頼めばすぐに手を離してくれるのが、救いといえば救いだろう。
 俺の声に気が付いたらしく、澪はぶらさがるのを止める。
 ・・・びろびろになってるな、制服・・・
 ちょっと手で触って感触を確かめてみるか。
 ・・・ぐぁ。
 そんなことはお構いなしに、澪はいつものように、スケッチブックをこっちに向ける。
『あのね』
 一枚めくる。
『チョコレートパフェ』
 そこにはでっかくそう書かれていた。
「・・・チョコレートパフェ?」
 オレが思わず口に出すと、よくわからないといった表情で澪が首を傾げる。
 いや、首を傾げられても困るぞ。
「食べたいのか?」
 ふるふるふると、首を振り、
『がんばるの』
 ・・・・・・
「・・・なにを?」
 と、そこでなにかに気が付いたらしい、あわててスケッチブックを自分の方に向けると、あれ、という表情になり、見る見るうちに真っ赤になる。
 スケッチブックに急いで書き込むと、こっちに向ける。
『まちがえたの』
 ・・・なるほど。そういうことか。
 思わず納得。
「それで、どうしたんだ? こんなところで?」
 実際どうして、階段の踊り場なんかにいるんだ?
 澪は、ごそごそとスケッチブックをめくる。
 ・・・間違えないように確実にやっているみたいだな。
 やがて、一枚のページを探り当てる。
『さがしたの』
「・・・さがしたって・・・オレを?」 
 うんうん。元気良く頷く澪。
「そうか、オレも実は澪を探そうとしていたところだったんだ」
 オレの言葉に、澪は不思議そうに首を傾げた。
 たしかに変だな。この表現。
「いや、みんなで、ワッフルを食べに行こうと思ってな。誘おうとおもってたんだ」
 言い方を変えてみた。これで大丈夫だろう。
 澪はちょっと考えてから、
『いくの』
 そう書かれたページを見せた。
 決定だな。
「そうか、そうなると、澪を入れて長森、茜、七瀬、みさき先輩・・・で、オレ。6人だな」
 時計を見ると、まだ2時30にもなっていない。こういうときはテスト様々だな。他の学校よりもテスト期間が遅れて、重なっていないのもポイントだ。
 ふと・・・気が付いてみれば、あの焦燥感は消えていた。
 なんというか、澪を見てると、元気がわいてくるような気がする。
 いつもひたむきで、がんばっている・・・
「助けられてるのかな・・・」
 そうつぶやいてオレは、また制服の裾にぶら下がっている澪を見る。
 ・・・まあ、いいか。
 しばらく好きにさせてやろう。
 オレと澪は、みさき先輩を呼びに、屋上に戻った。


 屋上へと続くドアを開けた瞬間、飛び込んでくる真っ青な空。

 −空だけの世界。
 この下にはきっと、なにもないんだ。
 余りに無力で、愚かな自分がいるだけで−

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