reason
〜 第5話 〜

 

※ このSS(?)は、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。

※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)

 

 

深山先輩に連れられてきたところは、例の大道具部屋であった。

「どうしたんだ?ここでの作業はもう終わったはずじゃなかったのか?」

確かに、オレの活躍により予定よりも早く、大道具は完成したはずだ。

「もうそろそろ、大道具を舞台に運ぶのよ。だから、その前に一通り、点検しておきたくてね。でも私1人じゃちょっと無理そうだから、折原君に頼んだのよ」

「なるほどな。大道具の責任者は、いつの間にかオレになっていたからな」

「そう言うこと」

深山先輩はそう言いながら、大道具部屋、元は倉庫だったらしい部屋のドアを開けた。

中に入ると、埃の匂いと木の匂い、他にもいろいろな匂いが漂ってきた。

パチン、と、深山先輩が電気のスイッチを押すと、部屋の中の明かりがつき、たくさんの大道具と、道具やらゴミが散らかった床が照らし出された。

「・・・すごいわね」

「片づけ、してなかったな・・・」

しかし、深山先輩はそんな床を、うまいこと進んで、大道具を一つ一つ、チェックしていく。

「うん・・・これはいいわね・・・これは・・・よくできてるわ・・・さすがね。折原君」

「ああ。オレ1人でやった訳じゃないけどな。その言葉、他の奴にも言ってくれな」

「わかってるわ・・・・うん。これはよし・・・・」

深山先輩はオレとの会話もそこそこに、大道具の点検に余念がない。

そして、大体の大道具の点検が終わり、深山先輩は手を腰に当てて、一番大きな張りぼてを見上げた。

これは、オレが来たときに作った、オレの記念すべき逸品だ。もちろん、バカみたいにでかい。釣り鐘みたいになっていて、講演の時はその中に人が入って、この張りぼてが左右に分かれ、人が中から出てくる、と言うものだ。

「これが最後ね。折原君」

「ん?」

「これ、引き上げてもらえないかしら?」

「引き上げる?」

「ええ。外からは開かないようになっているからね。中に入って調べておかないと」

「1人でやるのか・・・?」

「そうよ。頑張ってね」

オレは仕方なく、壁際に垂れ下がっているロープを引っ張る。作るときに、この張りぼてを浮かせておかなければならなかったので、梁からロープを通して、張りぼてを浮かせるようにはしているんだが・・・

「ぐぉぉ・・・・」

作ったときも、2、3人で持ち上げていたものを、オレ1人で持ち上げるには、かなり苦しいものがある。

「ぐあぁぁ・・・・」

ようやく、張りぼてが少し浮いた。持っているロープに力を込める。

「もう少しお願い」

深山先輩の声が聞こえる。って言うか、むちゃくちゃ重いぞ・・・

「そこでいいわよ。ちょっと待っててね」

その声で、持っていたロープを柱に結びつける。手がものすごく痛いぞ。

「なかなかの出来だろう?」

浮かんだ張りぼての下に、オレと深山先輩が入った。

「そうね。それじゃ、降ろしてくれる?一回、開くかどうか、試してみたいから」

「また1人でか?」

「二人でやったら、誰がこの中に入るの?」

その時。

すっ、と言う音が聞こえたような気がした。

そして・・・

ドスーン!!!

「・・・・降ろしたぞ」

「この場合は『落ちてきた』って言う方が正しいんじゃないかしら?」

オレ達は見事に、張りぼての中に閉じこめられた格好になった。張りぼてのかなは、外の光を通さずに、わずかな光しかない。

確か・・・おお。あったあった。

オレは、制服に持っていたペンライトをつけた。

「結構暗いわね。でも、これぐらいかしら?」

ペンライトの光に照らし出された深山先輩は、腕を組みながらそうつぶやく。さすが、演劇部の部長だ。こんな時も、張りぼてのことを考えている。オレにはとうてい真似できないぞ。

「それよりも、ここから出る方が先決じゃないか?」

「大丈夫よ。開くようになってるんだから。で、どうやって開くのかしら?」

「ああ。それはここをこうやって・・・・」

ペンライトで、張りぼてを開くために作った取っ手を照らし出し、それを引っ張る。引っ張る・・・・

「・・・・あれ?」

引っ張る。強く引っ張る・・・・

「どうしたの?折原君」

「いや・・・ここを引っ張れば・・・・開くはずなんだが・・・」

どうやっても、張りぼては開く気配を見せない。

「開かないの?」

「どうやら、そうみたいだな・・・」

「それじゃ、作り直さないとダメね。これじゃ使いものにならないわね。折原君、ちゃんと直しておいてね」

「・・・先輩。この状況、わかってるか?」

「ええ。大道具の点検して置いて、正解だったわね。本番でこうなったら、どうしようもなかったわ」

・・・ある意味、オレより強者かもしれないな・・・この先輩は。

「とにかく、ここから出るのが先決だろう。先輩、これで照らしてくれ」

オレはペンライトを深山先輩に渡すと、張りぼてをいろいろ調べ始めた。よくよく調べてみると、手当たり次第に釘が打ってあることがわかる。これじゃ、開くものも開かないぞ。

「頑丈に作ってくれたのね。折原君」

「頑丈に作り上げるのが、大道具の仕事だからな」

「でも、明日から、ちゃんと開くように直しておいて頂戴ね」

しかし、本当に丈夫に作ってしまったな。絶対開かない、と言う自信さえ出てくるほどの頑丈ぶりだ。

「先輩。到底開きそうにないぞ。どうする?壊そうか?」

「ダメよ。ここで壊したら、舞台に間に合うかどうか、わからないもの」

「こんな時でも舞台のことを優先させるんだな。感心するよ、ホント」

言葉を発した後で、オレは、はっとなった。う〜ん・・・ちょっと、意地の悪い言い方だったな。これじゃ、嫌味に聞こえても仕方ないか・・・

「先輩・・・すまない。口が滑った」

「・・・・・・・・・もの・・・」

「え・・・・?」

「・・・気にすることないわよ。それに、浩平君のそんなところが気に入ってるんですもの」

「気に入ってる・・・?」

オレは、張りぼてを調べるのを止めて、深山先輩の隣に座った。

「ええ。自分の思っていることを素直に口に出せる。それが出来る人間って、結構少ないと思うのよ」

「確かにそうだな・・・でも、そう言う人間って、嫌われるだろう?」

「確かにね。でも、それを怖がっていたら、とてもじゃないけど、舞台の演出なんて出来ないわよ。折原君ならわかると思うけど」

「なるほどな。さすが部長さんだ。言うことが違うな」

「だから、もしかして私が部に出られないときは、折原君。あなたがみんなを引っ張ってあげてね」

「え・・・・オレが?」

「そうよ。頼んだわよ」

「ああ。大船に乗ったつもりでいてくれ」

深山先輩は、オレの言葉を聞くと、クス・・・と笑った。

 

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