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※ このSS(?)は、Tactics制作のWin95版ソフトONE 〜輝く季節へ〜を元にしています。引用文・作品名・名称などの著作権はすべてTacticsが所持しています。
※ あ、あとゲームやってないとたぶん、というか絶対意味不明です。ぜひ買ってプレイしましょう(18歳以上になってからね)
手元の時計は、すでに8時を示していた。かれこれ、2時間ほど閉じこめられていることになる。しかし、実際はもっと長い時間、閉じこめられていたような気がする。それは、深山先輩も一緒だろう。
しばらく先輩と雑談をしていたが、次第に話題がなくなっていく。
うう・・・それにしても、寒くなってきた・・・まぁ、冬だから当たり前なんだろうが、この部屋は、元々倉庫だったらか、コンクリートの床に、どんどん体温が吸い取られていく。
ん?・・・・そうだよな・・・・
「あ・・・」
オレは制服の上を脱ぐと、深山先輩にかけた。わずかながら震えている先輩に気付いたからだ。それでなくとも、オレが寒いのに先輩が寒くないって言うことはないだろう。
「寒いんだろ?」
「折原君だって・・・」
「オレは鍛えているからな」
「ありがとう・・・」
先輩はそう言うと、オレの掛けた制服を頭からかぶった。
☆ ★ ☆
張りぼての中を、沈黙が流れる。そして、オレと深山先輩の間には、気まずい空気が流れ出した。別に、やましいことを考えてる訳じゃない・・・けど、こんな閉ざされた空間の中に閉じこめられて、ふたりっきりだと、どうしても意識してしまう。男って、悲しい生き物だよな・・・はぁ。
「折原君・・・」
「ん?何だ?先輩」
「ちょっと、話してもいいかしら?」
「ああ。別にかまわないぞ、お経とか、難しい話以外なら大歓迎だぞ」
「ふふ・・・・私に弟がいたら、折原君みたいだったのかもしれないわね・・・」
「深山先輩は、一人っ子なのか?」
「ええ・・・」
ペンライトの光が照らす、薄暗い張りぼての中で、深山先輩の瞳に影が走った。
「本当なら、1人じゃなかったはずなんだけどね。今も、家族で幸せに暮らしていたのかもしれないわ・・・」
「・・・・」
「私の今の家族、本当の家族じゃないのよ。養子って形で、今の家に住んでいるの。本当の家族は、私が小さい頃、交通事故で・・・」
「・・・・」
オレは何も言わずに、先輩の話を聞いていた。
「お母さんはおなかが大きくて・・・きっと男の子だと、私は信じていたわ・・・でも・・・それも、今となってはわからないけどね・・・」
「・・・オレも、きっと男の子だと思うぞ」
「ありがと。で、私は今の家に養子として引き取られた・・・しばらくは、ふさぎ込んでいたわ。でも・・・その時、御義父さんが連れていってくれたあの舞台に出会ったの」
「あの舞台?」
「ええ。劇団名とか、全然覚えてないんだけど、その時の舞台の内容だけは、今もはっきり覚えているわ。主人公は幼い女の子で、その家族が不慮の事故で死んでしまうの。まったく私と同じと思ったわ。そして、その舞台を憎んだの。でも、その舞台は決して、私の頭から離れなかった・・・」
「・・・・・」
「ある日、いつものように部屋にふさぎ込んでいたわ。1人で。その時、あの舞台を思い出して、ふと疑問に思ったの。その舞台、エンディングはどういうものだったか、わかる?」
「う〜ん・・・その女の子が、絶望にくじけずに、健気に生きていく・・・って所か?」
「はずれよ。その舞台は、女の子が、家族の後を追うか、それとも1人で生きるか・・・そう悩んでいるときに終わるの」
「かなり中途半端な舞台だな」
「そうね。私も最初、そう思ったわ。でも違うと思い始めた。あの舞台は・・・あの女の子は、観客なんだって。そして、あの女の子の人生は、それぞれの観客の心の中で、幸せになれるか、それとも不幸せか・・・それを決めるのは、私なんだって。そう思ったの」
「・・・よくわからないな・・・」
「つまり、その女の子は・・・私の中のその女の子は、こうやってあなたの前にいるって言う事よ」
「・・・・??」
「私が本当にやりたい舞台は、その続きなの。私の中で今まで続いてきたその舞台。ずっと演じ続けてきたその女の子。だから、私は演劇部に入ったのよ」
「・・・すごいな。先輩はやっぱり」
「途方もなくて、漠然とした話だけどね。どう?少しは暇つぶしになったかしら?」
薄暗い中の先輩の顔は、いつもの顔に戻っていた。
「ああ。改めて、部長の偉大さと信念が確認できたな」
「そんな大したものじゃないわよ。自分がやりたいことをやっているだけよ」
オレ達はお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
☆ ★ ☆
「・・・ん」
ゆっくりと目が開く。なんだ、まだ暗いじゃないか。それにしても、何でこんなに寒いんだ?凶悪に寒いぞ。
それに、体の節々が痛い。何があったんだ?いったい・・・
記憶を徐々によみがえらせる。
・・・そうか。そうだったな。
オレの左肩に寄りかかって寝息を立てている深山先輩を見たとき、はっきり思い出した。深山先輩は、安心しきった寝顔で、オレの左肩に身を預けている。
冷え切った体の中で、左肩だけが暖かい。そこには、はっきりと温もりが感じられた。
・・・なんだ?何で、深山先輩の顔を見ていると、どきどきするんだ?なんか、心が穏やかになっていく・・・
何を考えてるんだ!?オレは?しっかりしろ!そんな事考えるより、ここから出ることが先だろ!?
時計を見ると、6時を指していた。とは言っても、大道具の仕事は、もうすでに終わってしまっているから、ここに人が来る可能性は、ゼロに近いだろう。
・・・・ん?何か、オレのズボンの後ろポケットに、堅いものが当たる感触が・・・
オレは、深山先輩が起きないように、静かに後ろポケットを確認する。
おいおい・・・こんなものあるなら、先に言ってくれよ・・・
「深山先輩・・・起きてくれ」
オレは、そっと深山先輩の肩を揺さぶった。
「・・・ん・・・あ。おはよう。折原君」
先輩は目を細めたまま、オレに挨拶をする。
「先輩。こんなものがあったぞ」
オレは、自分のズボンの後ろポケットに入っていたかなづちを先輩に見せた。
「・・・これは?」
「かなづちと言ってな。釘を打ち付けるどころか、打ち付けてある釘を抜くこともできると言う、何とも素晴らしい道具だ」
「・・・・・・」
表情を崩さずに、オレの顔を見つめる先輩。
・・・俺は思わず、その視線から逃れようと、顔を逸らした。
「あの・・・呆れてるか?」
横目で先輩の顔を伺う。
先輩は、しばらくオレの顔を見つめていたが、クスッと笑った。
「折原君らしいわね」